隣の席の悪魔 〜あの頃は、明日が当たり前だった

三年生。

春。

新しいクラス表。

廊下は、
ざわざわした声で溢れている。

「また同じクラスだー!」

「離れた最悪!」

そんな声が飛び交う中。

私は、
掲示板を見上げた。

……高い。

見えない。

「ちび、
背伸びしても無理じゃね?」

後ろから笑い声。

「うるさい!!」

もはや毎年の恒例。

私は男子を押しのけながら、
必死に目を凝らす。

三年二組。

その下。

|星野 紬

よし。

……空くんは?

私は視線を動かす。

そして。

「……あ」

見つけた名前。

|朝比奈 空

同じクラス。

しかも。

「え」

私は、座席表を二度見した。

窓側。

後ろから二番目。

その隣。

朝比奈 空

……うそ。

また、
隣。

「星野」

後ろから、
聞き慣れた声。

振り向く。

「空くん!!」

すると。

空くんが、
少しだけ座席表を見る。

数秒。

そして。

「……また隣」

空くんはそう言って、
少しだけ口元を緩めた。



新しい教室。

新しい席。

隣には、
空くん。

私は鞄を置きながら、
小さく笑った。

「なんか戻った感じするね」

空くんは、
机に頬杖をつく。

「……何が」

「入学の頃!」

すると。

空くんが、
少しだけこっちを見る。

そして。

「……またうるさくなる」

私は笑った。

「空くん、
ちょっと嬉しそう!」

「気のせい」

私は前を見る。

窓から入る風に、
髪が揺れてくすぐったい。

その時。

空くんが、
ふとこっちを見た。

「……もうつけてる」

「え?」

私は瞬きをする。

空くんの視線。

カチューシャ。

あ。

私は笑った。

「似合うでしょ」

空くんは、
少しだけ視線を逸らした。

そして。

「……まぁ」

数秒遅れて。

「……星野って感じ」

心臓が、
どくんと大きく跳ねる。

誤魔化すみたいに、
私は片手を挙げてみせた。

「これも!」

あの、
UFOキャッチャーで取ってくれた時計。

空くんは何も言わない。

でも。

耳だけ、
ちょっと赤い。

私はなんだか照れくさくなって、
慌てて前を向く。

窓から吹き込む春の風。

三年生。

最後の一年。

「……走るか」

空くんが言う。

私は笑った。

「走る!」

春の光が、
新しい教室を静かに照らしていた。

また。

隣から、
一年が始まる。