三年生への進級を
目前に控えた、
春休みの昼。
私はコンビニで飲み物を持って、
レジへ向かっていた。
切ったばかりの髪が、
まだ少し落ち着かない。
歩くたび、
毛先がくるんと揺れる。
私は何度目か分からないくらい、
髪を耳にかけた。
その時。
自動ドアから、
風。
ベルの音。
「……星野?」
ドアの方向から聞こえる、
聞き慣れた声。
振り向く。
「あれ?空くんだ」
Tシャツ。
眠そうな顔。
その瞬間。
ぴたり。
空くんの視線が止まる。
「……髪」
あ。
私は毛先を触る。
「切ったの!
心機一転!」
空くんは、
少しだけ目を細めた。
「……星野っぽい」
私は瞬きをする。
「なにそれ」
空くんは、
普通の顔。
「別に」
「それって似合うってこと?」
その瞬間。
空くんが、
少しだけ視線を逸らした。
耳。
ちょっと赤い。
「……うるさい」
「へへ」
もう一度、
髪を耳にかける。
「空くん、
なんでいるの?」
「暇だから」
「暇なの!?」
私はぱっと笑った。
「じゃあちょっと付き合ってよ!」
「何」
「買い物!」
私はコンビニ袋を揺らしながら、
にやっと笑った。
「色々新調したいの!
三年生だし!受験だし!」
すると。
空くんが、
小さくため息をつく。
「……なんで俺」
「楽しいから!」
即答。
空くんは、
やれやれって顔をした。
そのあと。
「……少しだけ」
ちゃんと、
私の隣を歩き出す。
◇
ショッピングモール。
春休みだからか、
人が多い。
私は雑貨屋へ入った瞬間、
ぱっと目を輝かせた。
「うわ見て空くん!
これ可愛い!!」
カチューシャ。
細い茶色のデザイン。
私は鏡の前で、
それを頭につける。
短くなった髪の毛先が、
またくるんと揺れた。
「どう?」
「……なんか違う」
「えー!?」
私は別のを取る。
「これも可愛い!」
今度は、
幅が太めの黒色。
もう一回つける。
「これは?」
空くんが、
数秒じっと見る。
「……そっち」
私は鏡を見る。
「今ちゃんと選んだ!?」
「うるさい」
でも。
空くん、
ちょっと目を逸らしてる。
私は笑った。
「買おーっと」
◇
文房具屋。
桜の飾りが施された、
春らしい店内。
私は試し書きコーナーで、
シャーペンを握ったまま唸る。
「うーん……」
「長い」
空くんが、
隣で小さくため息をついた。
「だっていっぱいある!」
「どれでも一緒」
「違うの!」
私は頬を膨らませた。
その時。
空くんが、
あるシャーペンを指差した。
「これ」
え。
私は手に取り、
さらっ、とノートへ線を引く。
「……書きやすっ!!」
「だろ」
空くん、
ちょっとだけ得意そう。
珍しい。
「空くん、
これ使ってるの?」
「ん」
私はそのまま、
レジの方向へ足を向けた。
「じゃあこれ買う!」
空くんは、
別に気にした様子もなく歩き出す。
でも。
私は新しいシャーペンを握りながら、
ちょっとだけ嬉しかった。
◇
会計を済ませた私は、
店の外で待つ空くんへ駆け寄った。
「見て〜」
「なに」
私は空くんへ、
シャーペンを掲げる。
「おそろい」
ぴたり。
空くんの動きが止まる。
私のシャーペン。
たぶん、
頭の中で
自分のシャーペンを浮かべてる。
そして。
「……あ」
本気で今気づいたって顔。
私は吹き出した。
「今気づいたの!?」
空くんは、
少しだけ視線を逸らす。
耳。
赤い。
「……別に、
狙ってない」
「へへ」
私は笑いながら、
新しいシャーペンを握りしめた。
その時。
空くんがまた、
やれやれって顔をする。
でも。
そのまま、
小さく笑った。
◇
そのあと。
私はゲームセンターの前で、
急に立ち止まった。
「空くん見て!!」
「……なに」
私はケースの中を指差す。
腕時計。
白い文字盤。
細い黒ベルト。
シンプルで、
ちょっと大人っぽいデザイン。
「欲しい……」
「普通に買えよ」
「取る!!
高いもん!」
「無理だろ」
「やってみないと分かんないじゃん!」
◇
数分後。
「なんでぇぇぇ!!」
私は台へ突っ伏した。
取れない。
全然動かない。
「だから無理って言った」
空くん、
後ろで呆れてる。
「もう一回!!」
「沼るぞ」
「うるさい!」
私は再び100円を入れる。
がこん。
動かない。
「っあーーー!!」
その瞬間。
後ろから、
小さくため息。
そして。
「貸せ」
え。
空くんが、
私の横へ立つ。
近い。
私は黙る。
空くんは、
無表情のままレバーを動かす。
がこん。
……動いた!
でも。
落ちない。
空くんの動きが止まる。
数秒の沈黙。
そして。
「……ちっ」
え。
珍しく、
ちょっと悔しそう。
そのまま。
空くんが、
自分の財布から100円を取り出す。
「え、空くん?」
「黙ってろ」
がこん。
今度は、
少しだけ位置をずらす。
数秒。
ぽとっ。
「え!!!」
落ちた。
私は一気に顔を上げる。
「うそ!!」
空くんは、
普通の顔。
でも。
口元が、
ちょっとだけ得意そうだった。
私は吹き出した。
「空くん、
めっちゃ本気じゃん!」
「うるさい」
空くんの耳が赤くて、
私は顔を逸らして笑った。
◇
ゲームセンターを出た後も、
私は腕時計の箱を抱えながら、
何回もにやけてしまう。
「やばい……
めっちゃ嬉しい」
「子どもか」
「だって空くんが取ったんだよ!?」
その瞬間。
空くんが、
少しだけ視線を逸らした。
私は腕時計の箱を見つめながら、
ぱっと笑う。
「大切にする!」
私はそのまま、
嬉しくて続ける。
「受験の時も使う!」
すると。
空くんが、
小さくため息をついた。
「……勝手にすれば」
「へへ」
私は笑いながら、
箱をぎゅっと抱きしめた。
その時。
空くんが、
少しだけ目を細める。
今日何度目かの、
やれやれって顔。
でも。
口元は、
いつもより緩んでいた。
◇
帰り道。
春の風。
並ぶ影。
「三年生かー……」
私は影を見ながら言った。
「次こそ、
同じクラスがいいなぁ」
思ったより、
素直な声が出た。
空くんが、
少しだけこっちを見る。
「なんで」
「だって、
二年生では別だったし」
私は唇を尖らせる。
「授業中もつまんなかった」
すると。
空くんが、
小さくため息をついた。
「……別でも、
変わんなかっただろ」
え。
空くんは、
前を向いたまま。
「図書室」
その瞬間。
西日。
静かな空気。
窓際。
放課後の景色が、
一気に浮かぶ。
私は笑った。
「……たしかに」
すると。
空くんが、
いつもより少し
優しい顔で笑った。
春の夕方。
少し長くなった影が、
静かに並んでいた。
目前に控えた、
春休みの昼。
私はコンビニで飲み物を持って、
レジへ向かっていた。
切ったばかりの髪が、
まだ少し落ち着かない。
歩くたび、
毛先がくるんと揺れる。
私は何度目か分からないくらい、
髪を耳にかけた。
その時。
自動ドアから、
風。
ベルの音。
「……星野?」
ドアの方向から聞こえる、
聞き慣れた声。
振り向く。
「あれ?空くんだ」
Tシャツ。
眠そうな顔。
その瞬間。
ぴたり。
空くんの視線が止まる。
「……髪」
あ。
私は毛先を触る。
「切ったの!
心機一転!」
空くんは、
少しだけ目を細めた。
「……星野っぽい」
私は瞬きをする。
「なにそれ」
空くんは、
普通の顔。
「別に」
「それって似合うってこと?」
その瞬間。
空くんが、
少しだけ視線を逸らした。
耳。
ちょっと赤い。
「……うるさい」
「へへ」
もう一度、
髪を耳にかける。
「空くん、
なんでいるの?」
「暇だから」
「暇なの!?」
私はぱっと笑った。
「じゃあちょっと付き合ってよ!」
「何」
「買い物!」
私はコンビニ袋を揺らしながら、
にやっと笑った。
「色々新調したいの!
三年生だし!受験だし!」
すると。
空くんが、
小さくため息をつく。
「……なんで俺」
「楽しいから!」
即答。
空くんは、
やれやれって顔をした。
そのあと。
「……少しだけ」
ちゃんと、
私の隣を歩き出す。
◇
ショッピングモール。
春休みだからか、
人が多い。
私は雑貨屋へ入った瞬間、
ぱっと目を輝かせた。
「うわ見て空くん!
これ可愛い!!」
カチューシャ。
細い茶色のデザイン。
私は鏡の前で、
それを頭につける。
短くなった髪の毛先が、
またくるんと揺れた。
「どう?」
「……なんか違う」
「えー!?」
私は別のを取る。
「これも可愛い!」
今度は、
幅が太めの黒色。
もう一回つける。
「これは?」
空くんが、
数秒じっと見る。
「……そっち」
私は鏡を見る。
「今ちゃんと選んだ!?」
「うるさい」
でも。
空くん、
ちょっと目を逸らしてる。
私は笑った。
「買おーっと」
◇
文房具屋。
桜の飾りが施された、
春らしい店内。
私は試し書きコーナーで、
シャーペンを握ったまま唸る。
「うーん……」
「長い」
空くんが、
隣で小さくため息をついた。
「だっていっぱいある!」
「どれでも一緒」
「違うの!」
私は頬を膨らませた。
その時。
空くんが、
あるシャーペンを指差した。
「これ」
え。
私は手に取り、
さらっ、とノートへ線を引く。
「……書きやすっ!!」
「だろ」
空くん、
ちょっとだけ得意そう。
珍しい。
「空くん、
これ使ってるの?」
「ん」
私はそのまま、
レジの方向へ足を向けた。
「じゃあこれ買う!」
空くんは、
別に気にした様子もなく歩き出す。
でも。
私は新しいシャーペンを握りながら、
ちょっとだけ嬉しかった。
◇
会計を済ませた私は、
店の外で待つ空くんへ駆け寄った。
「見て〜」
「なに」
私は空くんへ、
シャーペンを掲げる。
「おそろい」
ぴたり。
空くんの動きが止まる。
私のシャーペン。
たぶん、
頭の中で
自分のシャーペンを浮かべてる。
そして。
「……あ」
本気で今気づいたって顔。
私は吹き出した。
「今気づいたの!?」
空くんは、
少しだけ視線を逸らす。
耳。
赤い。
「……別に、
狙ってない」
「へへ」
私は笑いながら、
新しいシャーペンを握りしめた。
その時。
空くんがまた、
やれやれって顔をする。
でも。
そのまま、
小さく笑った。
◇
そのあと。
私はゲームセンターの前で、
急に立ち止まった。
「空くん見て!!」
「……なに」
私はケースの中を指差す。
腕時計。
白い文字盤。
細い黒ベルト。
シンプルで、
ちょっと大人っぽいデザイン。
「欲しい……」
「普通に買えよ」
「取る!!
高いもん!」
「無理だろ」
「やってみないと分かんないじゃん!」
◇
数分後。
「なんでぇぇぇ!!」
私は台へ突っ伏した。
取れない。
全然動かない。
「だから無理って言った」
空くん、
後ろで呆れてる。
「もう一回!!」
「沼るぞ」
「うるさい!」
私は再び100円を入れる。
がこん。
動かない。
「っあーーー!!」
その瞬間。
後ろから、
小さくため息。
そして。
「貸せ」
え。
空くんが、
私の横へ立つ。
近い。
私は黙る。
空くんは、
無表情のままレバーを動かす。
がこん。
……動いた!
でも。
落ちない。
空くんの動きが止まる。
数秒の沈黙。
そして。
「……ちっ」
え。
珍しく、
ちょっと悔しそう。
そのまま。
空くんが、
自分の財布から100円を取り出す。
「え、空くん?」
「黙ってろ」
がこん。
今度は、
少しだけ位置をずらす。
数秒。
ぽとっ。
「え!!!」
落ちた。
私は一気に顔を上げる。
「うそ!!」
空くんは、
普通の顔。
でも。
口元が、
ちょっとだけ得意そうだった。
私は吹き出した。
「空くん、
めっちゃ本気じゃん!」
「うるさい」
空くんの耳が赤くて、
私は顔を逸らして笑った。
◇
ゲームセンターを出た後も、
私は腕時計の箱を抱えながら、
何回もにやけてしまう。
「やばい……
めっちゃ嬉しい」
「子どもか」
「だって空くんが取ったんだよ!?」
その瞬間。
空くんが、
少しだけ視線を逸らした。
私は腕時計の箱を見つめながら、
ぱっと笑う。
「大切にする!」
私はそのまま、
嬉しくて続ける。
「受験の時も使う!」
すると。
空くんが、
小さくため息をついた。
「……勝手にすれば」
「へへ」
私は笑いながら、
箱をぎゅっと抱きしめた。
その時。
空くんが、
少しだけ目を細める。
今日何度目かの、
やれやれって顔。
でも。
口元は、
いつもより緩んでいた。
◇
帰り道。
春の風。
並ぶ影。
「三年生かー……」
私は影を見ながら言った。
「次こそ、
同じクラスがいいなぁ」
思ったより、
素直な声が出た。
空くんが、
少しだけこっちを見る。
「なんで」
「だって、
二年生では別だったし」
私は唇を尖らせる。
「授業中もつまんなかった」
すると。
空くんが、
小さくため息をついた。
「……別でも、
変わんなかっただろ」
え。
空くんは、
前を向いたまま。
「図書室」
その瞬間。
西日。
静かな空気。
窓際。
放課後の景色が、
一気に浮かぶ。
私は笑った。
「……たしかに」
すると。
空くんが、
いつもより少し
優しい顔で笑った。
春の夕方。
少し長くなった影が、
静かに並んでいた。


