今日は、
朝から教室の空気が
なんだかそわそわしていた。
女子たちの机には、
小さい紙袋。
リボン。
甘い匂い。
……そう。
今日は、
バレンタイン。
◇
昼休みになると、
教室のあちこちで
チョコが飛び交っていた。
「はい、義理ー」
私は葛西くんへ、
小袋のお菓子を手渡す。
「雑っ」
葛西くんが笑う。
でも。
ちょっと嬉しそうな葛西くんが面白くて、
私も笑った。
その時。
葛西くんが、
私の机の上を見て目を丸くする。
「つむぎのチョコ、
すごい量だな。
みんなに渡すの?」
私は胸を張って答えた。
「クラスの子にはね!」
すると。
葛西くんが、
にやっと笑う。
「空は?」
え。
私は鞄へ手を入れる。
小さな箱。
昨日、
何回も失敗しながら作ったチョコ。
別に。
変な意味じゃなくて。
ただ。
空くんには、
ちゃんとしたの渡したかっただけ。
「もちろん!
空くんには――」
ガラッ。
教室のドアが開く。
「あ!空くん!」
私はぱっと手を振った。
その瞬間。
「あ、朝比奈くん!」
女子の声。
「これもらって!」
「友チョコだけど!」
「私もあるー!」
空くん。
あっという間に囲まれる。
楽しそうな声。
笑い声。
私は息を止めた。
なんか。
胸の奥が、
ざわっとする。
その感覚をごまかすみたいに。
私は握っていた箱を、
そっと鞄へ戻した。
◇
「星野」
低い声。
びくっと肩が跳ねる。
顔を上げる。
空くん。
いつの間にか、
目の前にいた。
「……何してんの」
「え?」
「ぼーっとしてた」
……見られてた。
「……別に」
私は視線を逸らす。
空くんが、
少しだけ眉を寄せた。
「……なんか変」
その言い方が。
いつもより少し、
ぶっきらぼうで。
私は小さく唇を噛んだ。
◇
放課後。
結局。
一日中渡せなかった。
チョコは、
まだ鞄の中。
今日も走る約束。
なのに。
なんか。
顔が見れない。
「星野」
「……ん?」
「静か」
空くんが、
走りながらこっちを見る。
「なんかあった?」
「別に」
「嘘つけ」
見透かされる。
手に、
力が入る。
「……空くんって、
チョコいっぱいもらった?」
空くんは、
少し黙る。
「まぁ」
……そっか。
人気だもん。
「……でも」
「え?」
空くんが、
前を見たまま言う。
「待ってるの、
まだあるから」
心臓が、
一度だけ大きく跳ねる。
え。
誰。
私はそのまま、
言葉が出なかった。
◇
帰り道。
いつもの別れ道。
「じゃ」
空くんが言う。
空くんの背中が、
もう帰るって言ってる。
……今しかない。
でも。
私は、
ぎゅっと鞄を握る。
言え。
言え。
言わないと。
……でも。
「……また明日」
結局。
言えなかった。
空くんが、
少しだけ立ち止まる。
振り返る。
数秒。
そして。
「……またな」
空くんは、
少しだけ視線を落とした。
鞄の中の小さなチョコが、
やけに重く感じた。
朝から教室の空気が
なんだかそわそわしていた。
女子たちの机には、
小さい紙袋。
リボン。
甘い匂い。
……そう。
今日は、
バレンタイン。
◇
昼休みになると、
教室のあちこちで
チョコが飛び交っていた。
「はい、義理ー」
私は葛西くんへ、
小袋のお菓子を手渡す。
「雑っ」
葛西くんが笑う。
でも。
ちょっと嬉しそうな葛西くんが面白くて、
私も笑った。
その時。
葛西くんが、
私の机の上を見て目を丸くする。
「つむぎのチョコ、
すごい量だな。
みんなに渡すの?」
私は胸を張って答えた。
「クラスの子にはね!」
すると。
葛西くんが、
にやっと笑う。
「空は?」
え。
私は鞄へ手を入れる。
小さな箱。
昨日、
何回も失敗しながら作ったチョコ。
別に。
変な意味じゃなくて。
ただ。
空くんには、
ちゃんとしたの渡したかっただけ。
「もちろん!
空くんには――」
ガラッ。
教室のドアが開く。
「あ!空くん!」
私はぱっと手を振った。
その瞬間。
「あ、朝比奈くん!」
女子の声。
「これもらって!」
「友チョコだけど!」
「私もあるー!」
空くん。
あっという間に囲まれる。
楽しそうな声。
笑い声。
私は息を止めた。
なんか。
胸の奥が、
ざわっとする。
その感覚をごまかすみたいに。
私は握っていた箱を、
そっと鞄へ戻した。
◇
「星野」
低い声。
びくっと肩が跳ねる。
顔を上げる。
空くん。
いつの間にか、
目の前にいた。
「……何してんの」
「え?」
「ぼーっとしてた」
……見られてた。
「……別に」
私は視線を逸らす。
空くんが、
少しだけ眉を寄せた。
「……なんか変」
その言い方が。
いつもより少し、
ぶっきらぼうで。
私は小さく唇を噛んだ。
◇
放課後。
結局。
一日中渡せなかった。
チョコは、
まだ鞄の中。
今日も走る約束。
なのに。
なんか。
顔が見れない。
「星野」
「……ん?」
「静か」
空くんが、
走りながらこっちを見る。
「なんかあった?」
「別に」
「嘘つけ」
見透かされる。
手に、
力が入る。
「……空くんって、
チョコいっぱいもらった?」
空くんは、
少し黙る。
「まぁ」
……そっか。
人気だもん。
「……でも」
「え?」
空くんが、
前を見たまま言う。
「待ってるの、
まだあるから」
心臓が、
一度だけ大きく跳ねる。
え。
誰。
私はそのまま、
言葉が出なかった。
◇
帰り道。
いつもの別れ道。
「じゃ」
空くんが言う。
空くんの背中が、
もう帰るって言ってる。
……今しかない。
でも。
私は、
ぎゅっと鞄を握る。
言え。
言え。
言わないと。
……でも。
「……また明日」
結局。
言えなかった。
空くんが、
少しだけ立ち止まる。
振り返る。
数秒。
そして。
「……またな」
空くんは、
少しだけ視線を落とした。
鞄の中の小さなチョコが、
やけに重く感じた。


