六月。
今日は朝から、雨だった。
窓を叩く音。
どんよりした空。
昼休みの図書当番。
図書室の窓も、白く曇ってる。
「やだぁ……
髪広がる……」
私はカウンターに突っ伏した。
「元気ないな」
聞き慣れた低い声。
目だけを動かす。
空くん。
今日も来た。
「だって雨嫌いだもん」
私はカウンターに頬をつけたまま言う。
「靴濡れるし、
髪うねるし、
走れないし」
その瞬間。
ぴたり。
空くんの動きが止まる。
「……走る気だったの」
「え?」
顔を上げる。
空くんは、普通の顔。
でも。
少しだけ、口角が上がってる。
「だって最近、
ずっと走ってるじゃん!」
「毎日ではない」
「ほぼ毎日!」
「はは」
……くそう。
やっぱりずるい。
◇
放課後。
雨はさらに強くなっていた。
窓の外は、真っ白。
グラウンドも、水たまりだらけ。
「うわぁ……」
私は自分の傘を見る。
よりによって、折り畳み傘。
絶対濡れる。
その時。
「お、つむぎだ」
後ろから声がして、振り向く。
同じクラスの男子。
「傘ちっちゃくない?
入ってく?」
「……え、
本気で言ってる?」
「方向一緒じゃん」
男子が傘を広げる。
大きい。
確かに入りやすそう。
「じゃあ――」
その瞬間。
ガタン。
音のした方を振り向く。
靴箱を閉める人影。
空くん。
空くんは無言のまま、外へ出ようとしている。
「空くん!」
いつものように声をかける。
でも。
空くんは止まらない。
絶対、聞こえてるはずなのに。
……なんで。
「つむぎ?」
その声に、私は慌てて男子を見る。
「どうする?」
私はもう一度、昇降口の方を振り返った。
雨。
空くんの背中。
どんどん遠くなる。
その瞬間。
私は反射みたいに口を開いていた。
「……ごめん!」
「え?」
「やっぱ大丈夫!
ありがとね!」
私は折り畳み傘を掴んで、急いで空くんを追いかけた。
◇
昇降口。
雨の音。
「空くん!!」
追いつく。
空くんが、立ち止まる。
でも。
振り向かない。
「……なに」
低い声。
「……なんか、
あった?」
「別に」
絶対嘘。
「空くん」
「……あいつと帰れば」
……え?
「……なんでよ」
空くんを見る。
耳、赤い。
「……もしかして」
私は空くんの顔を、横から覗き込む。
「嫌だった?」
ぴたり。
止まる空気。
空くんが、ゆっくり振り向く。
「……うざ」
でも。
やっぱり耳は赤い。
「へへ」
「なに」
「べつにー?」
むっとした顔で歩き出す空くん。
「あ、待ってよー!!」
……でも。
空くんの歩く速度は、いつもより少し遅い。
……待ってくれてる。
私は慌てて走り出した。
その瞬間。
つるっ。
「うわっ!?」
あ、
転ぶ――
そう思った瞬間。
ぐいっ。
腕を引かれる。
気づけば。
空くんが、すぐ近くにいた。
「……なんでいつも、
そうなんの」
低い声。
心臓が鳴る。
「ご、ごめん……」
空くんは、少しだけ眉を寄せたまま、私を見る。
雨の匂い。
制服。
いつもより少し跳ねた髪。
……近い。
その時。
ふと、思った。
「……空くん」
「なに」
「……背……」
空くんが、少しだけこっちを見る。
雨の音が、
やけに遠く聞こえた。
でも次の瞬間。
私は慌てて視線を逸らした。
「……なんでもない」
空くんは黙ったまま、私を見る。
そして、ふと。
空くんの視線が落ちた。
空くんの手。
私の手首を掴んでる。
熱い。
男の子の手。
心臓は、相変わらずうるさい。
数秒の沈黙。
夕方の風。
雨の音。
私も、空くんも。
黙ったまま。
その時。
空くんの指先が、ほんの少し動いた。
手首を掠める。
なぞるみたいに。
空くんは、何かを迷うみたいに、一瞬止まった。
そのあと。
はっとしたように、ぱっと手を離す。
「………帰る」
え。
空くんは前を向いたまま、少し早歩きになる。
「え、待って!!」
私は慌てて追いかけた。
でも。
顔が見れない。
今の、なに。
なんだったの。
すると。
前を向いたまま、空くんが言った。
「……危ないから」
「え?」
「ぼーっと歩くな」
短い声。
少しだけ掠れてた。
私は、隣に並びながら、そっと自分の手を見る。
まだ、少し熱い。
その時。
空くんが、ちらっとこっちを見る。
「……なんで笑ってんの」
え。
私、笑ってた?
私は慌てて口元を押さえる。
「笑ってない!!」
「笑ってる」
「空くんのせい!」
むすっと口を尖らせて歩き出す私に、
「濡れる」
空くんはそう言って、自分の傘を少し寄せた。
傘の下。
私たちの肩は、少しだけ近かった。
今日は朝から、雨だった。
窓を叩く音。
どんよりした空。
昼休みの図書当番。
図書室の窓も、白く曇ってる。
「やだぁ……
髪広がる……」
私はカウンターに突っ伏した。
「元気ないな」
聞き慣れた低い声。
目だけを動かす。
空くん。
今日も来た。
「だって雨嫌いだもん」
私はカウンターに頬をつけたまま言う。
「靴濡れるし、
髪うねるし、
走れないし」
その瞬間。
ぴたり。
空くんの動きが止まる。
「……走る気だったの」
「え?」
顔を上げる。
空くんは、普通の顔。
でも。
少しだけ、口角が上がってる。
「だって最近、
ずっと走ってるじゃん!」
「毎日ではない」
「ほぼ毎日!」
「はは」
……くそう。
やっぱりずるい。
◇
放課後。
雨はさらに強くなっていた。
窓の外は、真っ白。
グラウンドも、水たまりだらけ。
「うわぁ……」
私は自分の傘を見る。
よりによって、折り畳み傘。
絶対濡れる。
その時。
「お、つむぎだ」
後ろから声がして、振り向く。
同じクラスの男子。
「傘ちっちゃくない?
入ってく?」
「……え、
本気で言ってる?」
「方向一緒じゃん」
男子が傘を広げる。
大きい。
確かに入りやすそう。
「じゃあ――」
その瞬間。
ガタン。
音のした方を振り向く。
靴箱を閉める人影。
空くん。
空くんは無言のまま、外へ出ようとしている。
「空くん!」
いつものように声をかける。
でも。
空くんは止まらない。
絶対、聞こえてるはずなのに。
……なんで。
「つむぎ?」
その声に、私は慌てて男子を見る。
「どうする?」
私はもう一度、昇降口の方を振り返った。
雨。
空くんの背中。
どんどん遠くなる。
その瞬間。
私は反射みたいに口を開いていた。
「……ごめん!」
「え?」
「やっぱ大丈夫!
ありがとね!」
私は折り畳み傘を掴んで、急いで空くんを追いかけた。
◇
昇降口。
雨の音。
「空くん!!」
追いつく。
空くんが、立ち止まる。
でも。
振り向かない。
「……なに」
低い声。
「……なんか、
あった?」
「別に」
絶対嘘。
「空くん」
「……あいつと帰れば」
……え?
「……なんでよ」
空くんを見る。
耳、赤い。
「……もしかして」
私は空くんの顔を、横から覗き込む。
「嫌だった?」
ぴたり。
止まる空気。
空くんが、ゆっくり振り向く。
「……うざ」
でも。
やっぱり耳は赤い。
「へへ」
「なに」
「べつにー?」
むっとした顔で歩き出す空くん。
「あ、待ってよー!!」
……でも。
空くんの歩く速度は、いつもより少し遅い。
……待ってくれてる。
私は慌てて走り出した。
その瞬間。
つるっ。
「うわっ!?」
あ、
転ぶ――
そう思った瞬間。
ぐいっ。
腕を引かれる。
気づけば。
空くんが、すぐ近くにいた。
「……なんでいつも、
そうなんの」
低い声。
心臓が鳴る。
「ご、ごめん……」
空くんは、少しだけ眉を寄せたまま、私を見る。
雨の匂い。
制服。
いつもより少し跳ねた髪。
……近い。
その時。
ふと、思った。
「……空くん」
「なに」
「……背……」
空くんが、少しだけこっちを見る。
雨の音が、
やけに遠く聞こえた。
でも次の瞬間。
私は慌てて視線を逸らした。
「……なんでもない」
空くんは黙ったまま、私を見る。
そして、ふと。
空くんの視線が落ちた。
空くんの手。
私の手首を掴んでる。
熱い。
男の子の手。
心臓は、相変わらずうるさい。
数秒の沈黙。
夕方の風。
雨の音。
私も、空くんも。
黙ったまま。
その時。
空くんの指先が、ほんの少し動いた。
手首を掠める。
なぞるみたいに。
空くんは、何かを迷うみたいに、一瞬止まった。
そのあと。
はっとしたように、ぱっと手を離す。
「………帰る」
え。
空くんは前を向いたまま、少し早歩きになる。
「え、待って!!」
私は慌てて追いかけた。
でも。
顔が見れない。
今の、なに。
なんだったの。
すると。
前を向いたまま、空くんが言った。
「……危ないから」
「え?」
「ぼーっと歩くな」
短い声。
少しだけ掠れてた。
私は、隣に並びながら、そっと自分の手を見る。
まだ、少し熱い。
その時。
空くんが、ちらっとこっちを見る。
「……なんで笑ってんの」
え。
私、笑ってた?
私は慌てて口元を押さえる。
「笑ってない!!」
「笑ってる」
「空くんのせい!」
むすっと口を尖らせて歩き出す私に、
「濡れる」
空くんはそう言って、自分の傘を少し寄せた。
傘の下。
私たちの肩は、少しだけ近かった。


