ーーー中学一年生の、春。
グラウンドの向こうに、大きな入道雲が浮かんでいた。
「うるさ。
走りながら喋んな」
「空くんこそ!」
「喋ってない」
「今喋った!」
あの頃の私は、まだ何も知らなかった。
この瞬間が、
どれほど眩しく思えるのかも。
――何気ない毎日が、
かけがえのないものになることも。
◇
初めて”同志”を見つけたのは、入学式の日だった。
隣の下駄箱に手を伸ばす、
ひとりの男の子。
……え?
――小さい。
待って。
ちっちゃい!!!
いた。
ついに。
見上げなくていい男子が。
目線の高さが変わらない横顔を、
じーーーーっと見つめる。
毛先が揺れる髪。
白い肌。
切れ長の目。
なんか静かそう。
ありがとう神様。
ちゃんといた。
私の同志。
◇
少し前。
「ちびーーーーーーー!!
何組だったー??」
入学式が終わったばかりの体育館に、やたら響く声。
四月の空気。
まだ少し大きい制服。
窓の外には、
春っぽい青空。
なのに。
うるさい。
ほんっとにうるさい。
「しぃーー!!」
私は慌てて振り返る。
「声大きいってば!」
「へへ、怒った怒った」
まったく悪びれてない顔で笑う男子たちを、軽く睨んだ。
小学校から一緒の友達。
そして。
昔から私を散々バカにしてきた、
悪いやつら。
私のあだ名は――
チビ。
星野 紬
現在の身長、
平均身長マイナス10センチ。
……つまり。
私は、小さい。
みんな、
制服がやたら大人っぽく見えるのに。
私だけ、
まだ小学生感が抜けない。
渡り廊下の手前に貼り出されたクラス名簿も、少し高い。
「で、何組?」
「二組」
「おっ、俺ら一組!」
「はいはい」
適当に返事をしながら、私は歩き出した。
「つむぎ、その、
寂しいと思うけどーー」
横を歩く友達を見上げる。
彼女は、
なんとも言いづらそうに苦笑いしている。
「大丈夫!」
私はすぐに笑ってみせた。
「とりあえず、
隣の席の人に話しかけるし!」
少し長めに作ってもらった制服の袖を、私は折り返す。
新しい制服。
新しい教室。
新しい友達。
今日から中学生。
ちょっと、
大人になった気分。
……なのに。
仲良しの友達は、
みんな別のクラス。
一体、
何の嫌がらせ?
それに。
「首、痛いし……」
首をさする。
だって。
みんな、
大きすぎる!
見渡す限り、
背の高い人ばっかり。
成長期って、
不公平すぎない?
あぁ、また袖が下がってきた。
「つむぎなら、
大丈夫だね!」
そう言って先に帰っていく友達に、手を振り返した、その時。
視界に入ったのが。
――あの同志だった。
私は、
じーーーーっと見つめる。
その男の子は、私の視線なんて気づかないまま、昇降口を出ていく。
第一印象は。
“小さくて静かそう”
ただそれだけだった。
……まさか。
その男の子が、
私の日常になるなんて。
◇
◇
翌日。
中学校最初の、
ちゃんとした登校日。
昨日の入学式は、式典のあとそのまま下校で、友達を作る暇なんてまるでなかった。
だから今日が。
今日こそが、
本番なのだ。
友達ができるかどうか。
学校生活を楽しめるか。
私は初日にかけている!
私の席は――
窓側、
後ろから二番目。
悪くない。
むしろ良い位置。
問題は。
隣。
黒板に貼り出された席次表には、
朝比奈 空
と書かれている。
空って、
あの――
ガタン。
隣の席が引かれる音。
「……え」
顔を上げる。
そこにいたのは。
昨日見つけた、
“同志”だった。
え。
うそ。
隣!?
心の中で拍手した。
同志が、
ゆっくりこっちを見る。
切れ長の目。
なんか怖い。
でも。
大丈夫。
ちゃんと視界に入る高さだし。
「……」
いやいや。
「……」
無言て。
気まずい。
ここは私から行くしかない。
だって。
同志だもん。
私はぐいっと身を乗り出した。
「ねぇ!!」
「……なに」
低っ。
声、
思ったより低っ。
「空くんだよね!?」
ぴくっと、
空くんの眉が動いた。
「……なんで知ってんの」
「有名だもん」
昨日、友達が言ってた。
静かで、
全然喋らなくて、
頭が良いやつ。
まさかそれが、私の同志のことだとは、思わなかったけど。
「初めましてって言いたいとこだけど!
それがさぁ、
初めましてじゃないんだよっ」
「……は?」
嫌そうな顔。
ふふん。
これ言ったら、絶対びっくりする。
私は得意げに胸を張った。
「私ね!
昨日、空くん見つけたの!」
「……なにそれ」
「小さい人いたーーー!!
って思って!」
…………。
空くんの表情が、すっと消える。
教室の空気が、ほんの少し冷えた気がした。
そして、ひと言。
「……お前、
喧嘩売ってんの?」
――これが、
私の隣の席の悪魔との、
本当の出会いだった。
グラウンドの向こうに、大きな入道雲が浮かんでいた。
「うるさ。
走りながら喋んな」
「空くんこそ!」
「喋ってない」
「今喋った!」
あの頃の私は、まだ何も知らなかった。
この瞬間が、
どれほど眩しく思えるのかも。
――何気ない毎日が、
かけがえのないものになることも。
◇
初めて”同志”を見つけたのは、入学式の日だった。
隣の下駄箱に手を伸ばす、
ひとりの男の子。
……え?
――小さい。
待って。
ちっちゃい!!!
いた。
ついに。
見上げなくていい男子が。
目線の高さが変わらない横顔を、
じーーーーっと見つめる。
毛先が揺れる髪。
白い肌。
切れ長の目。
なんか静かそう。
ありがとう神様。
ちゃんといた。
私の同志。
◇
少し前。
「ちびーーーーーーー!!
何組だったー??」
入学式が終わったばかりの体育館に、やたら響く声。
四月の空気。
まだ少し大きい制服。
窓の外には、
春っぽい青空。
なのに。
うるさい。
ほんっとにうるさい。
「しぃーー!!」
私は慌てて振り返る。
「声大きいってば!」
「へへ、怒った怒った」
まったく悪びれてない顔で笑う男子たちを、軽く睨んだ。
小学校から一緒の友達。
そして。
昔から私を散々バカにしてきた、
悪いやつら。
私のあだ名は――
チビ。
星野 紬
現在の身長、
平均身長マイナス10センチ。
……つまり。
私は、小さい。
みんな、
制服がやたら大人っぽく見えるのに。
私だけ、
まだ小学生感が抜けない。
渡り廊下の手前に貼り出されたクラス名簿も、少し高い。
「で、何組?」
「二組」
「おっ、俺ら一組!」
「はいはい」
適当に返事をしながら、私は歩き出した。
「つむぎ、その、
寂しいと思うけどーー」
横を歩く友達を見上げる。
彼女は、
なんとも言いづらそうに苦笑いしている。
「大丈夫!」
私はすぐに笑ってみせた。
「とりあえず、
隣の席の人に話しかけるし!」
少し長めに作ってもらった制服の袖を、私は折り返す。
新しい制服。
新しい教室。
新しい友達。
今日から中学生。
ちょっと、
大人になった気分。
……なのに。
仲良しの友達は、
みんな別のクラス。
一体、
何の嫌がらせ?
それに。
「首、痛いし……」
首をさする。
だって。
みんな、
大きすぎる!
見渡す限り、
背の高い人ばっかり。
成長期って、
不公平すぎない?
あぁ、また袖が下がってきた。
「つむぎなら、
大丈夫だね!」
そう言って先に帰っていく友達に、手を振り返した、その時。
視界に入ったのが。
――あの同志だった。
私は、
じーーーーっと見つめる。
その男の子は、私の視線なんて気づかないまま、昇降口を出ていく。
第一印象は。
“小さくて静かそう”
ただそれだけだった。
……まさか。
その男の子が、
私の日常になるなんて。
◇
◇
翌日。
中学校最初の、
ちゃんとした登校日。
昨日の入学式は、式典のあとそのまま下校で、友達を作る暇なんてまるでなかった。
だから今日が。
今日こそが、
本番なのだ。
友達ができるかどうか。
学校生活を楽しめるか。
私は初日にかけている!
私の席は――
窓側、
後ろから二番目。
悪くない。
むしろ良い位置。
問題は。
隣。
黒板に貼り出された席次表には、
朝比奈 空
と書かれている。
空って、
あの――
ガタン。
隣の席が引かれる音。
「……え」
顔を上げる。
そこにいたのは。
昨日見つけた、
“同志”だった。
え。
うそ。
隣!?
心の中で拍手した。
同志が、
ゆっくりこっちを見る。
切れ長の目。
なんか怖い。
でも。
大丈夫。
ちゃんと視界に入る高さだし。
「……」
いやいや。
「……」
無言て。
気まずい。
ここは私から行くしかない。
だって。
同志だもん。
私はぐいっと身を乗り出した。
「ねぇ!!」
「……なに」
低っ。
声、
思ったより低っ。
「空くんだよね!?」
ぴくっと、
空くんの眉が動いた。
「……なんで知ってんの」
「有名だもん」
昨日、友達が言ってた。
静かで、
全然喋らなくて、
頭が良いやつ。
まさかそれが、私の同志のことだとは、思わなかったけど。
「初めましてって言いたいとこだけど!
それがさぁ、
初めましてじゃないんだよっ」
「……は?」
嫌そうな顔。
ふふん。
これ言ったら、絶対びっくりする。
私は得意げに胸を張った。
「私ね!
昨日、空くん見つけたの!」
「……なにそれ」
「小さい人いたーーー!!
って思って!」
…………。
空くんの表情が、すっと消える。
教室の空気が、ほんの少し冷えた気がした。
そして、ひと言。
「……お前、
喧嘩売ってんの?」
――これが、
私の隣の席の悪魔との、
本当の出会いだった。


