窓から入る風が、
暖かくなってきた。
春。
新しいクラス分けの紙の前には、
朝から人だかりができている。
「えー!
離れたぁ!」
「また一緒じゃん!」
廊下に、
騒がしい声が響く。
私は背伸びしながら、
クラス表を見上げた。
……
見えない。
「ちび、
そこ届いてないぞ」
後ろから笑い声。
「うるさい!!」
私は肘で男子を押しのけながら、
必死に目を凝らした。
二年三組。
その下。
|星野 紬
よし。
見つけた。
その瞬間。
胸がざわつく。
私は、
もう一度視線を動かした。
……空くんは?
「……あ」
見つけた名前。
|朝比奈 空
一組。
別クラス。
その瞬間。
周りの騒がしさが、
少しだけ遠くなるのを感じた。
◇
教室。
新しい席。
新しいクラス。
窓の外。
春の青空。
去年とは違う景色。
私は頬杖をつきながら、
ノートをめくる。
「……変な感じ」
去年まで。
隣を見れば、
空くんがいた。
でも。
今はいない。
その時。
ガラッ。
教室の後ろのドアが開く。
「星野」
低い声。
反射で顔を上げる。
「空くん!」
空くんは、
去年と変わらない顔で、
私の席まで来た。
「……定規」
「え?」
「借りてたやつ。
助かった」
あ。
「そうだった!
ありがと!」
受け取る時、
少しだけ指が触れた。
一瞬、息が詰まる。
……最近こういうの、
少し増えた。
空くんは何も言わないまま、
私の机を見る。
「……騒がしい」
「え?」
「ここ」
私は瞬きをする。
「空くんのとこ、
……静かだった?」
空くんが止まる。
「……別に」
私はニヤリと笑う。
「静かなの、
好きなくせに」
「うるさい」
被せるように呟いて、
空くんは視線を逸らした。
◇
放課後。
私は駐輪場で立ち止まる。
空くんと走る時、
いつも待ってる場所。
クラス替えって、
なんか嫌い。
その時。
「帰んないの」
後ろから聞こえた声に、
振り向く。
空くんは、
カバンを肩にかけたまま、
眠そうな顔をしてる。
「空くん!」
「……なに」
「なんか久しぶり!」
「今日も会ってる」
確かに。
でも。
……違う。
授業中。
隣を見ても。
放課後。
鞄を持つ時も。
いないじゃん、
空くん。
◇
夕方。
風。
少し暖かい。
川沿いの桜は、
まだ少しだけ花びらを残していた。
「空くん」
「なに」
「二年生でも、
走ってくれる?」
空くんは、
前を向いたまま。
「……気が向いたら」
あ。
またそれ。
私は小さく笑った。
「それ、
来るやつじゃん」
空くんは何も言わない。
その代わり。
少しだけ笑ってた。
◇
帰り道。
二年生になったけど、
隣を歩く人は、
変わらない。
風が吹く。
桜の花びらが、
ふわっと舞った。
その中を歩く空くんを見ながら、
私はふと思う。
空くんのこと。
去年より、
ずっと知ってる。
小さいのに、
歩幅が大きいこと。
負けず嫌いなこと。
時々、
意地悪に笑うこと。
私は、
もう一度隣を見る。
空くんは気づかないまま、
前を向いて歩いている。
春の風が、静かに吹いていた。
暖かくなってきた。
春。
新しいクラス分けの紙の前には、
朝から人だかりができている。
「えー!
離れたぁ!」
「また一緒じゃん!」
廊下に、
騒がしい声が響く。
私は背伸びしながら、
クラス表を見上げた。
……
見えない。
「ちび、
そこ届いてないぞ」
後ろから笑い声。
「うるさい!!」
私は肘で男子を押しのけながら、
必死に目を凝らした。
二年三組。
その下。
|星野 紬
よし。
見つけた。
その瞬間。
胸がざわつく。
私は、
もう一度視線を動かした。
……空くんは?
「……あ」
見つけた名前。
|朝比奈 空
一組。
別クラス。
その瞬間。
周りの騒がしさが、
少しだけ遠くなるのを感じた。
◇
教室。
新しい席。
新しいクラス。
窓の外。
春の青空。
去年とは違う景色。
私は頬杖をつきながら、
ノートをめくる。
「……変な感じ」
去年まで。
隣を見れば、
空くんがいた。
でも。
今はいない。
その時。
ガラッ。
教室の後ろのドアが開く。
「星野」
低い声。
反射で顔を上げる。
「空くん!」
空くんは、
去年と変わらない顔で、
私の席まで来た。
「……定規」
「え?」
「借りてたやつ。
助かった」
あ。
「そうだった!
ありがと!」
受け取る時、
少しだけ指が触れた。
一瞬、息が詰まる。
……最近こういうの、
少し増えた。
空くんは何も言わないまま、
私の机を見る。
「……騒がしい」
「え?」
「ここ」
私は瞬きをする。
「空くんのとこ、
……静かだった?」
空くんが止まる。
「……別に」
私はニヤリと笑う。
「静かなの、
好きなくせに」
「うるさい」
被せるように呟いて、
空くんは視線を逸らした。
◇
放課後。
私は駐輪場で立ち止まる。
空くんと走る時、
いつも待ってる場所。
クラス替えって、
なんか嫌い。
その時。
「帰んないの」
後ろから聞こえた声に、
振り向く。
空くんは、
カバンを肩にかけたまま、
眠そうな顔をしてる。
「空くん!」
「……なに」
「なんか久しぶり!」
「今日も会ってる」
確かに。
でも。
……違う。
授業中。
隣を見ても。
放課後。
鞄を持つ時も。
いないじゃん、
空くん。
◇
夕方。
風。
少し暖かい。
川沿いの桜は、
まだ少しだけ花びらを残していた。
「空くん」
「なに」
「二年生でも、
走ってくれる?」
空くんは、
前を向いたまま。
「……気が向いたら」
あ。
またそれ。
私は小さく笑った。
「それ、
来るやつじゃん」
空くんは何も言わない。
その代わり。
少しだけ笑ってた。
◇
帰り道。
二年生になったけど、
隣を歩く人は、
変わらない。
風が吹く。
桜の花びらが、
ふわっと舞った。
その中を歩く空くんを見ながら、
私はふと思う。
空くんのこと。
去年より、
ずっと知ってる。
小さいのに、
歩幅が大きいこと。
負けず嫌いなこと。
時々、
意地悪に笑うこと。
私は、
もう一度隣を見る。
空くんは気づかないまま、
前を向いて歩いている。
春の風が、静かに吹いていた。


