隣の席の悪魔 〜あの頃は、明日が当たり前だった

◇ 空 side ◇

朝。

教室。

俺はいつも通り、
自分の席につく。

鞄を置く。

頬杖。

眠い。

窓の外は、
晴れ。

……そろそろ、
あいつが来る。

そう思った時。

教室のドアが――
開かない。

……あれ。

その時。

「つむぎ、
今日休みだって〜」

女子の声。

……風邪か。

珍しい。



ホームルーム前。

静か。

誰も。

『空くん見て!
シャーペンの芯めっちゃ長く出た!!』

なんて、
意味の分からない報告をしてこない。

……平和。



一時間目。

授業。

集中できる。

隣から。

『空くん、
先生はいったい何の話してるの?』

って、
教科書を指で揺らされない。

……快適。



二時間目。

ページをめくる音だけが響く。

……妙に落ち着いてる。

いつもなら。

『ねぇ空くん』

『なに』

『この漢字なに?』

って、
小学生みたいなことを聞いてくる。

しかも。

「そこに書いてる」

って答えると。

『えっほんとだ!』

って、
ケラケラ笑う。

……なんなんだ、あいつ。



休み時間。

葛西が、
後ろの席へ座り込む。

「空」

「なに」

「今日静かだな」

「普段がうるさいだけ」

葛西が吹き出す。

「隣いないと、
授業集中できる?」

「集中できるし」

即答。

「読書も進む」

「よかったじゃん」

「平和」

本のページをめくりながら、
なんとなく隣を見る。

……空っぽ。

その瞬間。

気づけば、
読む場所が少し飛んでいた。

……迷惑。



昼休み。

購買帰り。

パンと牛乳を持って、
席へ戻る。

いつもなら。

『一口ちょうだい!』

って、
身を乗り出してくる。

しかも。

断ると。

『ケチ!!』

って騒ぐ。

意味が分からない。

今日は来ない。

……静か。



五時間目。

居眠りの生徒が多発する時間。

いつもなら。

隣から、
小さい声。

『……空くん、
起きてる?』

しかも。

俺が無視すると。

今度は。

カチカチカチカチ。

シャーペンの後ろで、
机をつついてくる。

うるさい。

今日は何もない。

……妙に静か。



放課後。

教室。

夕焼け。

いつもなら。

『空くん今日走る!?』

って。

もう走るのが決まってるみたいに、
笑ってるのに。

今日は何もない。

……調子が狂う。

俺は鞄を持ったまま、
なんとなく窓の外を見る。

その時。

葛西が、
後ろから笑った。

「空」

「なに」

「今日さ」

葛西は、
にやにやしながら続ける。

「つまんなそう」

「は?」

俺は小さく眉を寄せる。

すると。

葛西が、
肩を震わせながら笑った。

「顔に出てんだよ」

「……何が」



帰り道。

ひとり。

やけに静かだった。

……今日、
走ってない。

その瞬間。

なんか。

少しだけ、
足が重く感じた。




翌朝。

教室のドアが、
勢いよく開く。

「空くーん!!」

聞き慣れた声。

俺は顔を上げる。

星野。

いつも通り。

うるさい。

「熱下がった!!」

「朝から元気すぎ」

「えへへ」

星野は笑いながら、
いつもみたいに隣へ座る。

「空くん」

「なに」

「休んでる間、
ちょっと寂しかった?」

「……は?」

固まる俺に、
星野がにやにや笑った。

「顔がね、
そんな感じ!」

うるさい。

ほんと、
朝からうるさい。

でも――

俺は小さくため息をついた。

「……うるさい」


でも。

今日の教室は、
昨日よりちゃんと、うるさかった。