隣の席の悪魔 〜あの頃は、明日が当たり前だった

窓の外で、
風が夏の葉を揺らしていた。

図書館のカウンター。
返却された本。
静かな空気。

私は貸出カードを整理しながら、小さく息を吐いた。

社会人二年目の九月。
少しずつ、仕事にも慣れてきた頃。

昔の私が聞いたら、
きっと驚くと思う。

静かな場所なんて、どちらかというと落ち着かなかったから。

それなのに。

甘い香りが、
風に乗って流れ込んできた。

金木犀。

一瞬だけ、息を忘れた。

『秋ってさ』
『ん』
『なんか寂しくない?』
『……でも嫌いじゃない』

低くて静かな声。
夕方の図書室。
並んで歩いた帰り道。

しまったはずの記憶が、不意に鼻先をかすめる。