その依頼が舞い込んだのは、よく晴れた金曜日のことだった。
しかも、解決屋さんポストではなく、本人から直接。
「雅ちゃん……あの、お願いがあるの」
昼休み、教室で声をかけてきたのは、同じクラスの千夏。
ふだんは明るい子なのに、今日はずいぶん元気がない。
よく見ると目もとが赤い。
さすがのあたしでもわかる。
泣き腫らした目だ。
「どうしたの、千夏ちゃん。何かあった?」
あたしは外向けの、やわらかいお嬢様の声で尋ねる。
「うちのマロンが、いなくなっちゃったの。昨日の夜、玄関の戸が開いていて、それで……朝になっても帰ってこなくて」
ぽろぽろと、千夏の目から涙がこぼれた。
言葉のあいだに、「うっ、うっ」としゃくりあげる声が挟まる。
「家族みんなで探したんだけど、見つからなくて」
しゃくりあげる千夏の肩に手を置いて、なだめながら話を聞く。
いわゆる「マロン失踪事件」の大まかな経緯は把握した。
でも、どんな『マロン』なのかは確定してない。
和栗かもしれないし、甘栗かもしれない。
……って、文字通り『栗』なわけないか。
自らの意思で脱走する栗なんて、B級ホラーですら見たことない。
頼むから、アレ以外であってくれ。
猫とか、ハムスターとか、トカゲとか……。
「だいたいのことは、わかったわ。ところで千夏ちゃん。その……マロンって……」
声が上擦らないように、精一杯おしとやかな声を作った。
「マロンは……うちで飼ってる犬なの。雅ちゃん、解決屋さんって……犬も、探してくれる……?」
あたしの頬が、ピクッと引きつりそうになる。
だけどそれを『桐ヶ崎雅』の仮面でなんとか隠す。
頬に涙を伝わせながら、千夏がすがるようにあたしを見つめる。
でも、犬は、犬だけは――
続く言葉をグッと飲み込む。


