書斎を出て、僕は、雅さんがいる桐ヶ崎邸の広い庭へと向かった。
――あいかわらず、広い庭。
その真ん中の芝生で、雅さんが、一匹の黒い犬と転げまわっていた。
迫ってくる犬に、叫んで縮こまっていた少女はもういない。
「真央〜! お父さまのお話、終わった?」
「はい」
僕は、庭の隅にあるガーデニングテーブルの椅子に、腰をおろした。
肩から下ろした鞄から、深い茶色のカバーを被ったノートを取り出す。
それは、雅さんが買ってきた教科書三冊ぶんくらいありそうな、『解決屋さん帳』。
新しいページを開いて、僕はペンを握った。
『マロン失踪事件・解決』
――依頼主:千夏さん
――内容:飼い犬マロンの捜索
――結果:マロン、無事千夏さんのもとへ帰宅。
そこまで書いて、手が止まった。
さっき、雅さんのお父さまがこの件を引き継ぐことを申し出てくださった。
だけど僕は、それを丁寧にお断りした。
これは雅さんの『解決屋さん』の仕事だから。
それに雅さんはこの後、各所に「お届け」に行くのを楽しみにしている。
……それはそれで趣味が悪いけど。
続きをどう書こうか悩んでいると、ふいに、目の前に影が落ちた。
顔を上げると、いつの間にか、息を切らした雅さんが立っていた。
「真央、なに書いてんの?」
「……マロン失踪事件の顛末を、書いておこうかと」
「ふーん」
雅さんは、僕の手元を覗き込んだ。
シャチが、雅さんのスカートの裾に絡みついて、ぱたぱたとしっぽを振っていた。
それから、雅さんは――なぜか、僕から目をそらした。
「……ねえ、真央」
「はい」
「……あたしさ、真央にちゃんと、優しくできてるかな?」


