それから、僕は最後にもうひとつだけ、お父さまに尋ねた。
「お父さま。雅さんが、犬が苦手になった理由って――ご存知ですか?」
「理由……?」
「人間くらい大きな犬に、頭から一口で食べられそうになった、と、雅さんが言っていたんですが……」
僕がそう言うと、お父さまはすぐに何か思い当たったようだった。
「……ふふ」
お父さまは立ち上がって、本棚の奥から、古い革のアルバムを取り出してきた。
そして、ぱらぱらとページをめくって、一枚の写真を、僕に見せてくれた。
三歳くらいの雅さんが、巨大な茶色いふわふわの着ぐるみに抱きかかえられて、口を大きく開けて、ぎゃんぎゃん泣いている写真だった――。
「ハッピーランドに連れて行った時にだね。犬のキャラクターに会えると楽しみにしていたんだが――いざ会わせたら、まあ、この通り」
僕は、写真を見つめたまま、しばらく動けなかった。
――着ぐるみ。
雅さんが、十年もずっと心の底で恐れてきた巨大な犬は――ふわふわの、着ぐるみだった。
「あの子の頭の中では、たぶん、年々その犬が大きく、本物になっていったんだろう」
「あの……お父さま」
「うん?」
「これ、雅さんには――」
僕が言いかけると、お父さまはニッと笑って、口元に指を当てた。
「ご内密に」
「……はい」
僕は写真から顔を上げて、お父さまと小さく笑い合った。


