ひとしきり笑ってから、お父さまは、僕にこう尋ねた。
「真央くん。それで、雅は今、なにを大事に生きていると思う?」
突然の問いに、僕は答えに迷った。
「私はね、雅にずっと、こう言い続けてきたんだ。『誰よりも謙虚でありなさい。そして、たくさんの人の役に立つ人間になりなさい』と」
その言葉は雅さんへのものだけど、雅さんの後ろにいる僕の人生にも深く染み込んだ言葉だった。
「あの子は、この言葉を疎ましく思っているようだがね」
「……。」
「でもね」
お父さまは、ふっと笑った。
「雅は雅なりに、ちゃんと、あの言葉を生きてくれているみたいだね」
その声は、低く、優しい響きをしていた。
「それと、もう一つ」
お父さまは、ひと呼吸おいて、僕の方を真っ直ぐに見た。
「あの子が、ああやって無鉄砲に前に飛び出していけるのは――真央くん、君が、後ろにいるからだ」
胸の奥が、そわそわと小さく騒ぐ。
「動画の中の雅、ちゃんと君がどこにいるかを確認してから前に出ていただろう」
お父さまは、目を細めた。
「君たちはあの頃と、なにも変わらないね」
――あの頃。
僕は、すぐに、それがどの日のことか、分かった。
「雅はね、真央くんが後ろにいるから、強がれるんだよ」
お父さまは、昔と同じ言葉を、あの時と同じように穏やかな声で言った。
「あの子は気づいていないだろうけどね」
お父さまは、いたずらっぽく、ふっと、笑った。


