お昼ごはんは僕の分も雅さんのお母さまが用意してくれた。
それをいただいて、シャチのケージを組み立てようとした時、雅さんのお父さまに呼ばれた。
「真央くん。すまないが、今ちょっといいかな。昨日のことを雅にも聞いたんだが、要領を得なくてね」
そう言われて僕は、雅さんのお父さまの書斎に通された。
天井まで積み上がった本に囲まれたこの部屋は、小さい頃から何度訪れても背筋が伸びる。
「真央くん。突然すまないね。掛けてくれ」
「失礼します」
ソファの向かいに座ると、柔らかいクッションが僕を深く包んだ。
「昨日、雅と君が、千夏さんのマロンを探しに行った、というのは聞いている。だが、そのあとの話が、よく分からなくてね……」
お父さまはそこで言葉を切って、小さくため息をついた。
「雅の説明だとね、『犬と犬がいて、不良がいて、色々あってあたしと真央が勝った!』と……。私はその『色々あって』が怖いんだが――」
僕は、思わず吹き出しそうになって、なんとか飲み込んだ。
お父さまの予感は的中している。
あの『色々あって』の部分は、桐ヶ崎家のお嬢様として少々まずい。
「真央くん、その『色々』を教えてもらえるかい」
僕はそっとスマホを取り出した。
「お父さま、この中に『色々』の全貌が収まっています」
そう言って、昨日、雅さんが空き地でやってのけた撃退の動画を再生した。
手のひらの小さな画面の中で雅さんが『自分らより小さい犬を寄ってたかって怖がらせて、口までふさいで、それのどこが『しつけ』だっつーんだよ、あぁ!?』とヤンキー口調で捲し立てている。
それを見たお父さまは――
「……ふふ」
肩を震わせて、しばらく声も出さずに笑い続けた。
「ふっ……はははは……いやあ、すごいなあ……雅は……」
お父さまは目尻を押さえながら笑っていた。
「真央くん、すまない、笑ってしまって。……いや、雅がね。あんまり若い頃の母さんに、そっくりだったから」
「えっ……雅さんのお母さまも、こうだったんですか」
「もっとひどかったよ」
そう笑った雅さんのお父さまの目は、すごく嬉しそうだった。


