翌日――。
土曜日の朝から、僕は桐ヶ崎邸の庭にいた。
昨日連れて帰ってきた黒い犬を、広い庭の真ん中で水浴びさせている。
雅さんが昨日の夜のうちにネットで調べて、ドッグフードや犬用のシャンプーを買い込んだらしい。
玄関先には、まだ開けきれていない段ボールがいくつも積まれていた。
僕が犬を泡で洗って、雅さんは安全なところからホースで泡を流している。
「……僕にかけてどうするんですか」
「だって犬が動くから。ちゃんと真央が捕まえててよ」
「雅さんの犬なんですけど……」
「ま、まあまあ……」
歯切れ悪くそう言って、雅さんが愛想笑いで誤魔化した。
初めは洗われるのを嫌がっていた犬も、慣れてきたのか今は大人しく僕に体を委ねている。
「……ん?」
そう言った雅さんがおもむろに近づいてきた。
「見て、この子のお腹!」
言われて犬の体をよく見てみると、真っ黒だと思っていた犬は胸からお腹にかけて白い模様があった。
「シャチだ……」
「はい?」
「黒い体に白いお腹って完全にシャチだよ。……よしっ、きみは今から『シャチ』だ!」
ビシッと指をさされて、犬は不思議そうに首を傾げた。
「わかったら返事をおし! シャチ!」
そう言われた犬は返事の代わりに、体をブルブルと震わせた。
「わぁ……!」
一瞬で僕と雅さんは泡と水まみれになった。
「ちょ、ちょっと! シャチ! 返事の仕方が豪快すぎるんだけど!」
雅さんはそう言って、ホースを振り回して大笑いしていた。


