マロンは、ぱちくりと目を瞬かせて、首をくいっと傾げた。
「今日見たことは全部、千夏にバラさないでよね」
マロンは、もう一度、ゆっくり首を傾げた。
「……くっ。犬のくせに、なんて交渉上手なの……。わかった、わかったわよ。今度、おやつ持ってくから。それで手打ちね。犬に二言はないんだからね!」
相変わらず、犬相手にメチャクチャなことを言ってる。
マロンは、しっぽを、ぱたん、と一度振った。
「よしっ、契約成立」
雅さんはふんっと胸を張って、何事もなかった顔でお嬢様の笑顔に戻った。
「千夏ちゃん、お待たせ。マロン、これからもよろしくね」
「うんっ! 雅ちゃん、本当にありがとう!」
車がマロンを乗せて、公園を去っていった。
あとに残されたのは、僕たちと、一匹の黒い犬だけだった。
黒い犬はマロンを見送ったあと、僕たちの足元にぺたんと座って動かなかった。
「雅さん」
「ん?」
「この子、どうしますか。……保健所に、連絡しますか?」
「保健所に連れて行ったら、どうなるの」
そう言って視線を落とした雅さんは、その答えがわかっているみたいだった。
だから僕は何も言わずに続く言葉を待った。
「……うちに連れて帰ろうかな。庭だけは無駄に広いし。犬1匹くらい、平気でしょ」
雅さんがそう言うと、黒い犬が雅さんを見上げてパタリとしっぽを一度振った。


