【 side:真央 】
『ほんとうに!? ありがとう雅ちゃん……っ、いますぐ、お母さんに車出してもらうから!』
雅さんが耳に当てたスマホの向こうから、千夏さんのうわずった声が、僕の耳にも届いた。
電話を切った雅さんは、ぐったりとスマホを持つ手を降ろした。
「今日はもう『桐ヶ崎雅』は在庫切れだよ……。千夏の前でちゃんとできるかな」
そう言った雅さんの声は、いつになく弱々しかった。
「大丈夫ですよ、雅さんなら」
「真央のくせにてきとー言うな」
適当じゃないんだけどな、と思いながら雅さんを促して空き地を出る。
雅さん、マロン、黒い犬、そして僕。
腰の高さまである草をかき分けながら公園まで戻ってくると、もう子どもたちの姿はなかった。
日が傾いて、公園の空は夕焼けと夜の色が混ざり合っていた。
その境目を寝ぐらへ帰るカラスたちの影が、ゆっくりと横切っていく。
公園のベンチに座って千夏さんたちを待っていると、足元に座っていたマロンが立ち上がって一台の車をじっと見つめた。
「マロン、どうしたの」
雅さんが不思議そうにマロンを覗き込む。
「千夏さんたちが来たんじゃないですかね」
「えっ、犬なのにそんなことがわかるの? やっぱこわ……なんでもない」
雅さんは言いかけた言葉を誤魔化すみたいに、マロンの頭をぎこちなく撫でた。
しばらくして、マロンの視線の先から千夏さんと妹らしい小さな女の子が駆けてきた。
千夏さんはマロンを見つけるなり、ぼろぼろと泣いた。
「マロン……っ、マロン、ごめんね、ごめんね……っ」
千夏さんはマロンの首に手を回して抱きしめながら何度も謝っていた。
後から来た千夏さんの母に軽く状況を説明して、念のためにマロンが怪我をしたりしていないか、病院に連れていってあげてほしいと伝えた。


