「雅さん」
鼻声のくせに、やけにきっぱりした声だった。
あたしの手が止まる。
真央が、赤くなった目でじっとあたしを見ていた。
「……スカートで拭かないでください」
「……。」
「制服なんですよ」
「……はいはい」
あたしはしぶしぶスカートから手を離して、ポケットを探る。
あったあった。
くしゃっと丸まったハンカチを取り出すと、真央の眉がさらに寄った。
……あー、これはハンカチを畳まずにポケットに突っ込んだことにキレてる顔だ。
「ほんっと、細かいんだから」
そう言いながら、あたしはハンカチで乱暴に目元を拭った。
それから真央にハンカチを差し出した。
「はい、どーぞ」
真央はあたしの涙で少し湿ったハンカチを、なんとも言えない表情をしながら指先で受け取った。
「……ありがとう、ございます」
そう言った声は、なんだかあまりありがたくなさそうだった。
その時、地べたに座り込んでいたあたしと真央のもとにマロンが寄ってきた。
そのままあたしと真央の間にお行儀良くお座りして、あたしたちの顔を見比べた。
そして――ぺろん。
「わ……あ……!!」
マロンが、あたしの頬の、涙の跡をなめた。
「ななな……っ! なめられた!」
固まったあたしを見て、真央がふふ、と頬を緩めた。
「雅さんが泣き虫だからマロンが慰めてくれたんですね」
「なんだと……! 真央にだけは言われたくないっ!」
あたしは真央を威嚇しながら、そっとマロンの背中に手を添えた。
「クゥン」
ふわふわの暖かい毛の向こうから、トク、トク、とマロンの鼓動が手のひらに伝わってきた。
ふと、視線を上げると、少し離れた場所にいる黒い犬と目が合った。
「……きみも、こっちにおいで!」
言ってから、自分でちょっとだけびっくりした。
でも、差し出したその手を、引っ込めたりはしなかった。


