「見ないでください」
「真央、泣いて――」
「泣いてません」
「いや、泣いてるじゃん」
「みやびちゃんが泣くから」
「はあ?」
むくんで開きづらい目で真央を睨む。
自分の涙の責任をあたしに押し付けるなんて。
どんな顔で泣いているのか見てやろうと覗き込むと、真央は口をぎゅっと結んで、必死に目元を隠そうとしていた。
だけどあたしは真央の泣き顔を見逃したりしない。
長いまつげの先に、涙が引っかかっている。
頬にも、ちゃんと一筋、滑り落ちた跡が残っていた。
……やっぱ泣いてんじゃん。
「なんであたしのせいなのよ」
「みやびちゃんが泣くと、僕まで……」
そこで真央は言葉を切って、袖で乱暴に目元をぬぐった。
「……昔から、そうなんです」
昔から。
その言葉に、胸の奥がきゅっと小さく痛んだ。
あたしは真央の泣き顔をじっと見つめる。
久しぶりに見た。
本当に、久しぶりに見た。
最後に真央が泣いているところを見たのは、いつだったっけ。
虫が出た日?
夜の廊下が怖かった日?
あたしの後ろを、泣きながら追いかけてきた日?
そう思ったのに、どれだけ記憶を掘り返しても、出てきたのはひとつだけだった。
庭で、野良犬が飛び出してきた日。
小さな真央が、あたしと犬の間に立ってくれた日。
『みやびちゃんは……ぼくが、まもるっ……!』
そう言って、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、それでも両手を広げてくれた日。
そのあと、二人でわんわん泣いた。
あたしは自分のスカートで、自分の涙も、真央の鼻水も、まとめて拭いたんだよね。
あとで、土と涙でぐちゃぐちゃになったあたしの服を見て、母が目を丸くしてたのを覚えてる。
でも……あれ?
そのあと、真央が泣いているところを、あたしは見たことがあったっけ。


