野良犬はまだ低く唸っていた。
でも、さっきみたいに牙はむいていない。
しばらくあたしの手の匂いを嗅いでから、ふいっと顔をそらした。
「……ま、真央。これってOKってこと?」
「きっと、そうです」
真央があたしの隣に同じようにしゃがみ込んだ。
「バンダナ、ほどけるかな」
「やってみます」
そして同じように野良犬とマロンとの距離を測ってから、そっとマロンのバンダナに手を伸ばす。
マロンは怯えたような瞳で、じっと真央を見つめていた。
それは、さっきまでの怯えるあたしと同じ目だった。
――きっと、ひどい目に遭ったんだ。
写真の中で千夏に抱かれていたマロンとは別の犬みたいに小さく震えていた。
「……ゆるせない」
気づけばあたしは拳を握りしめていた。
その手は小さく震えている。
でもそれはさっきまでの恐怖じゃない。
紛れもない、怒り。
「あ、ほどけました」
真央の手の中にひらりとバンダナが落ちた。
マロンがようやく、「クゥン」と小さく鳴いて、しっぽをパタパタと揺らした。
その時、マロンの横であたりを見張るみたいに警戒していた野良犬が、急に立ち上がった。
そして「ヴヴッ!」と唸って、前傾姿勢をとり、耳をピンと立てた。
「……っ!」
その姿に薄れかけていた恐怖心が一気に蘇る。
でも、野良犬の瞳はあたしたちじゃなくて、その奥の、空き地の入口の方を警戒していた。


