「……でもこの子、マロンじゃないですね」
犬を撫でながら真央が静かに言った。
その言葉にあたしは思わず大きく息をついた。
つまり、犬が……あともう1匹――。
頭がくらくらした。
だけど、あたしたちはマロンを見つけなきゃいけない。
「ね、ねえ。犬さん。この子ご存知ないですかねぇ……?」
ダメ元でマロンの写真を犬にそっと見せてみる。
真央は「なにやってるんですか」とでも言いたそうな顔であたしを見た。
犬はスマホを持ったあたしの手にそっと顔を近づけてきた。
「……っ!」
手に犬の生暖かい鼻息がかかって、叫びそうになった。
だけど犬の後ろで真央が人差し指を口元に当てて「しー」とジェスチャーしているのが見える。
あたしはなんとか声が漏れそうになるのを、唇を噛んでこらえた。
やがて犬は「フン……」と息を吐いて、あたしたちに背中を向けた。
そしてゆっくりと、ブルーシートの奥へ向かって歩いていく。
数歩進んでから、振り返る。
まるで「ついてこい」と言っているみたいだった。


