そして、あの日――。
みやびちゃんの家の広いお庭で遊んでいたら、どこからか大きな犬が走ってきた。
首輪のない、毛のもつれた野良犬だった。
「ワンッ、ワンワンッ」
吠えながらまっすぐ向かってくる犬に、みやびちゃんは悲鳴をあげてしゃがみ込んだ。
虫が好きで気の強いみやびちゃんが、世界で唯一苦手なもの。
それが犬だった。
みやびちゃんがどうして犬を嫌いなのかは知らない。
ただ、僕の記憶の一番初めからみやびちゃんは犬が大嫌いだった。
僕は少し離れたところでお花を集めていた。
みやびちゃんにお花のかんむりを作ってあげようと思って。
だから砂遊びをしていたみやびちゃんから僕は少し離れたところにいた。
「きゃあ」としゃがみ込んだみやびちゃんはとても小さくて、大きな犬にひと口で食べられてしまうんじゃないかと思った。
そう思った瞬間――気づいたら、走り出していた。
手に持っていたお花を放り投げて。
いつもどんなに走ってもみやびちゃんに追いつけなかったのに、今だけはそれじゃだめだった。
だから、何度も足がからまって転びそうになりながらも、みやびちゃんと犬の間になんとか滑り込んだ。
だけど、どうやって追い払おうとか、そういうのは全く考えていなくて。
「みやびちゃんは……ぼくが、まもるっ……!」
ただ、そう叫びながら、みやびちゃんの前に立ちはだかって、泣きながら犬を睨んだ。
どんどん近づいてくる、半開きの口から見える牙がぬらぬらと光っていて、僕はもう死んじゃうんだと思った。
あの牙でガブリと食べられて。
だけど、みやびちゃんが食べられないならそれでいいや、と思った。
そう思ったのに、犬は僕の目前でキキーッとブレーキ音が聞こえそうなくらい、急に止まった。
僕がいっぱい睨んで、怖い顔をして「ぼくがまもる」と言ったから、犬が怖くなったんだと思った。
だけど今思うと、急に飛び出してきた僕にびっくりしただけだったかもしれない。
それでも、犬は僕の目前で急に止まって、そして興味が失せたみたいに反対方向へと尻尾を揺らしながら走って行ってしまった。
その瞬間、張り詰めていたものがほどけて、僕はみやびちゃんの横にぺたんと座り込んだ。


