「……あっ」
雅さんが小さく呟いて、視線を前の方に向けた。
僕も雅さんの視線の先を追う。
そこにはスーパーから出てきたおばあさんが、両手に重そうなビニール袋を持って、よたよたとした足取りで歩いていた。
「真央、行くよ」
「はい」
雅さんが制服のスカートの裾をひるがえしながら、軽やかに僕の前を駆けていく。
昔は僕がどれだけ本気で走っても、この小さな背中には追いつけなかった。
だけど今の僕は、たったの数歩で彼女に追いつける。
それを知っているけど、僕は今日もまた、雅さんの少し後ろから追いかける。
「こんにちは。お荷物、わたしたちがお手伝いしてもいいですか?」
雅さんがおばあさんにふわりと笑いかけた。
学校の規則通りに制服を着こなし、風に髪をなびかせる雅さんはどこからどう見ても、品行方正な中学生で。
おばあさんはそんな雅さんを一目見て、ふわりと表情を緩めた。
「まあ、気の利くお嬢さんね。ありがとう、それじゃあお願いしようかしら……」
雅さんの後ろに立っていた僕と、おばあさんの目が合った。
おばあさんの息が、ハッと一瞬止まる。
……ああ、また。
これ以上怖がらせないようにと、そっと目を伏せる。
僕は、誰かを怖がらせたいわけじゃない。
そう思った時。


