クズなヤクザをかっこいいと思った時点で私は負けだった件

「えーっと、それで衛藤さん、荒々木さんとの関係はどのようなもので?」
「ただの同級生です! 帰りたいです!」
「ダメに決まってんだろ、クソガキ」
「クソガキ言うな、ヤクザ」
「口悪かねぇか、こいつ。なぁ、大介」

 3人との荒々木君は出会いから数分後、何故か、私は物騒クズとゲス顔と一緒に高そうな車に押し込められた。荒々木君は別の車に乗せられて行った。荒々木君は苦笑いをしていたので、まあ、大丈夫そうだと思う。多分。

「まあ、口は悪いけど今はそこじゃないから、優介。それで衛藤さん、一応、口止めをさせてもらいたいんだけど」
「え、嫌です。警察行きます」
「だよねぇ」
「沈めりゃあ、いいだろ、こんなガキ」
「流石、物騒」
「あ?」

 ゲス顔の言葉に即答する。口止めされても流石に同級生がヤクザ然とした、というか、明らかなヤクザに連れて行かれたら警察に言うわ。
 物騒クズは私の口が反射的に言った言葉に私を睨む。距離感が近い。恐怖の壁ドンだわ、こんなん。隣でガン飛ばすなし。ゲス顔の方がまだ運転席から振り返って言ってるからマシだわ。

「優介、僕、若に判断仰ぐからちょっと待ってて」
「はいよ。うきさんとな」

 ゲス顔が携帯を持って車から出る。若に判断仰ぐとか言ってるからヤクザの組の若頭とかに聞くんだろうか。
 ってか、うきさんってちょっと……。いや、まあ、いっか。
 あれ、私、名前をヤクザの若頭に知られたら本格的に終わりでは? 生きていても生きていけなくない?

「おい、クソガキ」
「はい?」
「さっきは名前、下呼びして悪かったな」
「はい???」

 不意に謝られた内容があまりにも予想外で気が抜けた。あ、麻奈ちゃん呼びしたこと? そこ謝る? そこなの? クソガキ呼びすることとかじゃなくて?

「基本、女とは話さねぇから分かんねぇんだよ、そういうこと」
「あー、なるほど。ご愁傷様です」
「てめぇ、マジで気に触ることしか言わねぇな。肝座りすぎだろ」
「いやぁ、癖で」

 若干、恥ずかしがっているのか、本当に申し訳ないのか、私から顔を逸らしながら謝る物騒クズ。態度に似合わず、子どもっぽいなとか思ってしまった。

「ってか、荒々木君は……」
「うきさんとでも話してんじゃねぇの?」
「うきさんって浪木(なみき)君?」
「そう、って」

 私が物騒クズの言葉に同級生の苗字を口にすれば物騒クズは頷きかけ、そこで何かに気付き、私の方に顔をギュルンッと向ける。
 いや、「うき」とか呼ばれてる人って少ないんだよ。浪木右京(うきょう)しかいないでしょ、「うき」なんて呼ばれてるの。見た目は滅茶苦茶、ヤクザっぽくないけど、名前は浪木君しか条件に当てはまらないって。

「なん、なん、で」
「だって、うきなんてふうに呼ばれている人、ここらじゃ浪木右京しかいないですよ。まあ、別人ならいいなぁなんて思ってはいましたけど、マジかぁ」

 同級生二人がヤクザとヤクザ候補とか信じたくなかったなぁと頭の片隅で考えながら頭を押さえる。

「優介、話終わったけど何かあった?」
「あった」
「何があった?」
「うきさんが誰だかバレた」
「あらま。浪木右京だとバレたか。まぁ、同じ羽流々高校の同級生でクラスメイトなら分かるでしょう。学友にも「うきくん」と呼ばれているみたいですし」

 そこまでバレてんのかよ、と戻って来たゲス顔の言葉に思ったが浪木君がヤクザでこの二人の上司ならバレてるかと納得した。
 ゲス顔は嫌そう顔の物騒クズと苦虫を噛み潰したような顔の私を交互に見比べ、楽しそうに頰を吊り上げる。ゲスい。

「ではそのうきさんからの伝言です」

 ────ごめんね、衛藤さん。殺さないから僕達のこと黙っててもらえない? 説明は明日します。荒々木君は無事にお帰りしてもらうから心配はいらないです。明日からは誰か付けます。

「とのことです」
「納得いくかぁ!! この野郎がぁ!!! いや、死にたくないから言わないけども!!」

 私の絶叫にゲス顔は苦笑いを浮かべるし、物騒クズはだろうなと頷いていた。

 マジありえんて、浪木君。