その日の就業後、帰ろうと廊下を歩いていると突然腕を掴まれる。そのまま腕を引かれ、非常階段へと連れて来られた。
「どうしたの? 和泉くん」
今まで呼び出されることはあっても、こんなふうに連れてこられることなんてなかったのに。
「篠宮さん。約束、覚えてますか?」
「えっと……よしよしするってやつでしょ? もう何度かしてると思うけど……」
この場所にくるとドキドキしてしまう。
またつむじを触らせてもらえるのかなって。
「違います。他の人にはしないでってやつです」
そっちか。たしかにそんな約束もしたな。
他の人のつむじなんて触れるわけない。
「してないよ」
「でも、僕見ました。今日、小川の頭を撫でてるところ」
「あ……」
そうだ。私にとって和泉くんにしているのはつむじに触れる行為だという意識が強かった。
でも、彼にとってはただ撫でて褒める行為であって、私が今日小川ちゃんにしたのと同じ意味なんだ。
だから私は、約束を破ったということになる。
怒っているのかな?
後輩の頭を撫でて回るセクハラ先輩だと思ったかな。
「どうしてですか?」
「小川ちゃん、すごく頑張ってて、企画が通って、喜んでたから……」
私はなぜこんな言い訳をしているんだろう。
そもそも、どうして他の人にはしたらだめなんだろう。
「しないでって言ったのに」
ぼそりと呟かれた言葉に、苦しくなる。
頭を撫でてあげるのってだめなことなのかな?
なんで私、こんなに悪いことをしている気分になるのだろう。
ああもうわからない。
「ごめんね……やっぱりやめよっか。撫でて褒めるってやつ」
どちらにしても、結局私は自分の嗜好を隠して人のつむじに触れる変態なんだ。
私がしているのは、彼との約束を守っているわけじゃない。
自分の欲望を満たしているだけなんだ。
だから、私が悪い。
「どうしてですか? 僕が、他の人にはしないでってわがまま言ったからですか? だったらもう言いません。だからやめるなんてい言わないで――」
「違うの。そうじゃない。私は、純粋に和泉くんを褒めてたわけじゃないから……」
「どういうことですか?」
言うつもりはなかった。本当のことを知ったらきっと引かれるだろう。でも、このまま隠しておくこともできない。
ちゃんと謝って、もう終わりにしよう。
私だって、いつまでも罪悪感を抱いたまま続けられると思ってはいない。
「私ね、つむじが好きなの。頭を撫でるふりして、和泉くんのつむじを触って、ドキドキして、快感に浸ってるの。本当は抱き寄せて、キスしてみたいなんて思ってる。気持ち悪いでしょ?」
言ってしまった。
これでもう終わりだ。
和泉くんからの返答はない。
きっとドン引きしている。
私はうつむくことしかできなかった。
「……いいですよ」
気まずい沈黙の時間が流れる中、微かに聞こえてくる声。
「え……? なんて」
「キス、してもいいですよ――」
「どうしたの? 和泉くん」
今まで呼び出されることはあっても、こんなふうに連れてこられることなんてなかったのに。
「篠宮さん。約束、覚えてますか?」
「えっと……よしよしするってやつでしょ? もう何度かしてると思うけど……」
この場所にくるとドキドキしてしまう。
またつむじを触らせてもらえるのかなって。
「違います。他の人にはしないでってやつです」
そっちか。たしかにそんな約束もしたな。
他の人のつむじなんて触れるわけない。
「してないよ」
「でも、僕見ました。今日、小川の頭を撫でてるところ」
「あ……」
そうだ。私にとって和泉くんにしているのはつむじに触れる行為だという意識が強かった。
でも、彼にとってはただ撫でて褒める行為であって、私が今日小川ちゃんにしたのと同じ意味なんだ。
だから私は、約束を破ったということになる。
怒っているのかな?
後輩の頭を撫でて回るセクハラ先輩だと思ったかな。
「どうしてですか?」
「小川ちゃん、すごく頑張ってて、企画が通って、喜んでたから……」
私はなぜこんな言い訳をしているんだろう。
そもそも、どうして他の人にはしたらだめなんだろう。
「しないでって言ったのに」
ぼそりと呟かれた言葉に、苦しくなる。
頭を撫でてあげるのってだめなことなのかな?
なんで私、こんなに悪いことをしている気分になるのだろう。
ああもうわからない。
「ごめんね……やっぱりやめよっか。撫でて褒めるってやつ」
どちらにしても、結局私は自分の嗜好を隠して人のつむじに触れる変態なんだ。
私がしているのは、彼との約束を守っているわけじゃない。
自分の欲望を満たしているだけなんだ。
だから、私が悪い。
「どうしてですか? 僕が、他の人にはしないでってわがまま言ったからですか? だったらもう言いません。だからやめるなんてい言わないで――」
「違うの。そうじゃない。私は、純粋に和泉くんを褒めてたわけじゃないから……」
「どういうことですか?」
言うつもりはなかった。本当のことを知ったらきっと引かれるだろう。でも、このまま隠しておくこともできない。
ちゃんと謝って、もう終わりにしよう。
私だって、いつまでも罪悪感を抱いたまま続けられると思ってはいない。
「私ね、つむじが好きなの。頭を撫でるふりして、和泉くんのつむじを触って、ドキドキして、快感に浸ってるの。本当は抱き寄せて、キスしてみたいなんて思ってる。気持ち悪いでしょ?」
言ってしまった。
これでもう終わりだ。
和泉くんからの返答はない。
きっとドン引きしている。
私はうつむくことしかできなかった。
「……いいですよ」
気まずい沈黙の時間が流れる中、微かに聞こえてくる声。
「え……? なんて」
「キス、してもいいですよ――」



