抱き寄せて、キスがしたい

「これは……頭を撫でようかと……よしよし、的な?」

 何を言っているんだ私は。
 つむじを触ろうとしていたとも言えないけど、よしよしはないでしょう。
 
「よしよし?」
「い、和泉くん、すごく頑張ってるし、疲れてるみたいだし、それで……」

 だからって眠っている後輩の頭を撫でたりしないでしょ!
 なんて見苦しい言い訳だ。
 にしても、突っ伏したまま私を見上げる和泉くんは寝起きだからかすごく色っぽい。
 そんな目で見ないでぇ。

「他の人にもしてるんですか?」
「え? なにを?」
「よしよし、です」
「してないよ! してない、したことない」

 手を引っ込め急いで否定する。
 職場の人の頭を撫で回っていたらただの変態だ。
 いや、手を伸ばしていた時点でもう変態だと思われているかもしれない。
 潔く謝罪して、さっさと帰ろう。
 謝ろうとしたとき、和泉くんが口を開いた。

「してください」
「え……? なにを?」
「よしよし、してください」
 
 うそ。いいの? 触っていいの? これは、合法?

 子犬のような瞳でじっと見つめてくる。
 私の目線よりも下にある頭。撫でられるのを待っているみたいだ。

 これは、抗えない。

 ゆっくりと手を伸ばし、そっと頭に触れた。
 撫でるように手のひらを動かしながら、こっそり親指でつむじをなぞる。
 渦巻いた髪と肌の境界線。親指の先から伝わる熱。

 ああ。ゾクゾクする。

 だめだ。これ以上触れていたら止まらなくなる。
 手を離し、いたたまれなくなってうつむいた。
 
 和泉くんはやっと体を起こして座り直すと、私の顔を覗き込んでくる。

「仕事頑張ったら、またしてくれますか?」

 それって、頑張ったご褒美に頭を撫でてくれってこと?
 なにそれ可愛い。というか私にとってもご褒美なんですけど。いやでも、自制が効かなくなる可能性もある。

「それはちょっと――」
「だめですか?」
「だめ、じゃないです……」

 断ろうとしたのに、懇願する瞳に負けて了承してしまった。
 和泉くんは私の手を握ってくる。

「でも、僕以外の人にはしないでください」
「わかっ、た」

 嬉しそうに顔を緩ませる彼は、握った私の手のひらを親指で撫でてからゆっくりと離した。

「絶対、今日みたいに篠宮さんに迷惑かけないようにします」
「迷惑なんかじゃないから私のことは気にしないで。むしろ無理しないでもっと頼ってくれていいからね」
「ありがとうございます。じゃあ、僕はこれ終わらせてから帰るんで篠宮さん気を付けて帰ってくださいね」
「うん……ありがとう。お疲れ様」

 私は和泉くんに背を向けて営業部を出ていった。