私だけの盾~冷徹上司の広い肩に溶かされて~

「ゆっくり大きく息を吸って吐け。俺に合わせろ。すう、はあ……」

 彼の大きな胸板が動くのに合わせて、私も必死に息を吸って吐き出す。
 包み込まれるような安心感の中、しだいに激しい動悸がトクトクと落ち着いたものに変わっていった。

「ありがとうございます。……でも、不思議ですね。実は私、人混みが苦手なんですけど、課長の前でだけちゃんと息ができるんです」

 お礼のつもりでぽつりとこぼした私の言葉を聞き、課長は眉をぴくりと動かした。

「だけどここ数日、ずっと俺を避けてたな。オフィスでも、休憩室で会っても、全然目を合わせようとしなかった」
「それは……」
「俺がなにか気に障ることをしたのか? きちんと言ってくれないとわからない」

 普段の冷徹な姿からは想像もつかないほど、課長はひどく困惑しているように見えた。
 彼の真っすぐな瞳を見ていたら、胸の奥に溜まっていたものが勝手に溢れ出てくる。

「だって……課長、ご結婚されるんですよね」
「……は?」

 本当に意味がわからないと言わんばかりに、課長はあぜんとして口を開けた。

「誰がそんなことを」
「女子社員のあいだでウワサになってます。親会社の令嬢と結婚するから、重役の方たちと毎晩のように会食してるって……」
「なんだそれ」

 課長は顔をしかめつつ、深いため息を吐いた。なにか誤解が生じているのだろうか。