私だけの盾~冷徹上司の広い肩に溶かされて~

 誰なのか考えなくてもわかる。私の視界をすべてふさぐほどの、広い胸板の持ち主なんてひとりしかいない。……八木下課長だ。
 彼は朝の満員電車と同様に、エレベーターでも私をかばって壁をつくってくれている。
 いつもならうれしくてドキドキするのに、今の私は〝結婚のウワサ〟が頭をよぎってしまい、申し訳なさと切なさで胸がいっぱいになった。

 一階にたどりつく前にエレベーターの扉が開き、他部署の社員たちがそこで全員降りていく。
 大きく息を吐いてホッとしたところで扉が閉まると、機内には私と課長のふたりだけが残されていた。
 だけど、私も彼も口を開かない。気まずい〝沈黙〟だけが、ふたりのあいだに漂ったそのとき――。
 ガクンという鈍い衝撃音とともに、エレベーターが激しく揺れ、照明がパッと消えた。

「きゃっ!」
「大丈夫か!?」

 暗闇の中、課長の力強い声が響いた。そのあとすぐに予備の薄暗い非常灯がついたものの、エレベーターは完全に動きを止めてしまう。

「は、はい。……大丈夫、です」

 愛想笑いをしようとしたけれど、パニックと恐怖、そして先ほどまでの人混みの影響で、うまく呼吸ができない。どうしよう……この状態が続いたら過呼吸になってしまうかもしれない。

「無理をするな。乾、俺を見ろ」

 気づけば、課長が私の両肩をがっしりと掴んでいた。