私だけの盾~冷徹上司の広い肩に溶かされて~

「ここ、三ページ目の見積もりだが……」

 課長が私のデスクに手をつき、資料を指差すために少しだけ身を乗り出した。
 その瞬間、私は彼の広い肩幅に釘付けになってしまう。
 オフィスの蛍光灯に照らされた背中と肩のラインは惚れ惚れするほどバランスがよく、間近でそれを意識すると頭がクラクラしそうになる。

「……乾? 聞いてるか?」
「え、えっと、あの……見積もりの数字が……」
「いや」

 課長は少し言い淀んだあと、周りの社員に聞こえないほどの小さな声で私にだけささやいた。

「数字の話はあとでいい。それより顔色が悪い。満員電車の影響か」
「……え?」

 彼の表情は、先ほどとは打って変わって気遣うものに変わっていた。
 冷徹上司の仮面の奥にある、私だけが知っている優しい瞳が垣間見える。

「水でも飲んで、少し休んでからでかまわない。……無理はするな」

 そう言い残すと、課長は「あとで俺のところに再提出で」と、わざとビジネスライクな声で指示を出して去っていった。
 トクントクンと主張する心臓を押さえ、ホッと息を吐く。
 周囲の女子社員たちが「乾さん、課長に詰められてかわいそうに」と同情する視線を送ってくるけれど、このドキドキはそうじゃない。意味が違う。

(急に優しいモードに変わるのは反則だ。私の心臓がもたないよ……)

 冷徹上司が隠し持つ温かさに、私はとっくに気づいていて、意識せずにはいられなかった。