私だけの盾~冷徹上司の広い肩に溶かされて~

 チラリともう一度課長席を盗み見た。
 八木下課長は現在三十一歳。自分にも部下にも厳しく、感情に流されず結果だけを求める。
 そんなところが上から評価されたのか、異例の速さで出世街道を歩んでいる人だ。

(さっきはあんなに優しく守ってくれたのにな……)

 満員電車の中でのことが脳裏に浮かんできて、自然と顔が熱くなってきた。
 私の耳もとで「大丈夫か?」と聞いてくれた低い声。
 そしてなにより、スーツ越しでもわかる、あの広くてたくましい肩幅――。

「乾」
「は、はい!」

 突然名前を呼ばれ、驚いた私はビクッと肩を震わせながら返事をした。
 数枚の資料を手にした八木下課長が、いつの間にか私のもとへやってきていたのだけれど、あれこれ思い出していたせいで全然気がつかなかった。
 見上げると、感情の読めない冷たい視線が真っすぐに私を射貫いていた。

「すみません、なんでしょうか」
「昨日頼んでおいた契約進捗のデータだ。確認したが、いくつか数字に不備がある」

 先ほどの課長と佐藤くんの姿が脳裏をよぎり、急激に背筋が寒くなった。
 今から私にも容赦ないダメ出しが始まるのだろうか。