氷の王子を笑わせたいっ!

 そんなことがあったんだ……。

 聞いているだけで、胸がぎゅっと締めつけられて苦しくなる。


「そんでさ、そのうちニコリともしなくなっちゃったんだよね、アイツ。チームにいるときはもちろん……学校でも。で、ああ、もう限界だなーって思って。そんで、アイツ連れて俺もチーム辞めた」


 だから上本くん、今でも全然笑わないんだ。

 ううん、笑えなくなったままなんだ。


 楽しくないのに野球をやってるのかと思ってた。

 そんなに野球が好きじゃないのかなって思ってた。


 けど、そんなツラい思いをしたのに、辞められないくらい、本当は野球が大好きなんだ。


「え、ちょっと待って。なんで一ノ瀬が泣きそうな顔してんの?」

 わたしを見て、遠藤くんが小さく笑う。


「だって……」

 これ以上なにか言ったら、涙がこぼれてしまいそうで、続きの言葉をぐっと飲み込む。


「とにかくさ、アイツにとって、俺以外のピッチャーと組んでみるってのも、いい経験なんじゃないかな。やっぱさ、俺とばっかやってたら、あのときのことをどうしても思い出しちゃうじゃん? けど今は、そういうの全部忘れてさ、純粋に野球が好きだった頃に戻ってるのかもな、アイツ」

 そう言う遠藤くんの顔が、なんだかすごくうれしそう。


 遠藤くんと上本くんこそ、ベストコンビなんじゃないのかな。

 何年もずっとバッテリーを組み続けて、今だってお互いがお互いのことを思い合ってる。


 わたしみたいなぽっと出のヤツが、そんな二人の間に割って入ることなんてできないよ。