氷の王子を笑わせたいっ!

「えーっと……ごめんね。ひとつ確認させてもらってもいい?」

 わたしが恐る恐る尋ねると、「なに?」と低い声が返ってくる。

「ここって……どこ?」

「……マウンド」

「いや、まあ……それはさすがにわかってるんだけどさ」


 六月に入ったばかりのとある昼休み。

 もうすぐ梅雨入りしそうなどんよりとした曇り空の下、今わたしが立たされているのは、グラウンドの一角に作られたマウンドの上。


 マウンドっていうのはアレだよ。

 ほら、周りよりちょっとだけ高くなっている、野球でピッチャーが立ってボールを投げるとこ。


 ……え? なんでわたし、こんなとこに連れてこられたわけ⁇

 野球部でもないのに、なんでマウンドなんかに立たされてるの⁇


「無駄口を叩いている時間ないから。さっさとこれ投げて」

 わたしを無理やりこんなとこに連れてきた張本人が、わたしの目の前に野球のボールを突きつける。


「投げてって……」


 なんで?

 全然意味がわからないんだけど。


「いいから手を出して。早くしないと、午後の授業が始まるんだけど」


 いや、わかってるなら早く教室に戻りませんか?

 ……なんて言い返せていたら、こんなところに連れてこられたりしていないわけで。


 渋々わたしがボールを受け取ると、上本くんはマウンドを降り、バックネットを背にしゃがみ込んだ。


 上本くんの左手には、もちろんキャッチャーミット。

 キャッチャーマスクなどの防具は身につけていない。


 いったいなにが起きてるのかわたしにもよくわからないんだけど、これを読んでくれてる人には、もっとよくわからないよね?

 だから、今からちょっとだけ時を戻して説明するね。