釣れない女と腹黒王子




「………屋上で出会うなんて、びっくりだよ。……君、1年生?」



あまりにも無難な質問をしてしまった。
この女に、俺は見覚えがなかったから、1年生だと思う。
だって、学園内の女は、ほとんどが俺に群がってくるから。



「………違います。……2年生です。」

「………え」



嘘だろ、同級生?

…………知らない、記憶がない。

ということは、この女は、俺に擦り寄って来たことがない……!?



「へ、へぇ〜……そうなんだ。……何食べてるの?」



焦って、俺は変な質問をしてしまった。

どっからどう見ても、弁当だろ。



「……弁当です。」



ほらな、当たった―――。

そう思いながら、次の言葉を喋ろうとした時。

女は心底面倒臭そうな顔を向け、俺に言い放った。




「………あの、初対面でいきなりなんですか。……弁当食べるのに、邪魔です」

「…………………………………は?」




………………………今、この女。


俺に、邪魔……だと?




「……どういうこと?俺のこと、知らない?」



顔を引き攣らせながら、俺は尋ねる。

知ってはいるだろう?俺のことは。

俺が、あの一橋 憐だと知りながらの冒涜なのか?



「………いや、知らないです。……芸能人ですか?……私、詳しくないんですよね……。」




知らない。



……この女、俺を知らない。


芸能人か?確かに言われることはある。

でもそれは、それ程顔が綺麗だということ。


それを、『芸能人ですか?』『私、詳しくないんですよね』だと?



「………一橋 憐。聞いたことない?」



あくまで優しく、優等生の面を被って質問をする。
そして、少しぐっ、と顔を近づける。


普通の奴なら、頬を赤く染めるか、俺の美貌に気が遠くなるかの二択。


………なのに。



「え………知らないです。………有名なんですか?」



ずっと、ずっと弁当を貪りながら喋る。

喋る時には口元を抑えているから、全く汚くはない。


でも、この女の興味が俺ではなく、弁当にあることが。



どうしようもなく、不愉快だ。