日下部白菊。
彼女のことを、わたしはそう多くは知らない。
十三歳の女の子で、父と母を早くに亡くしており、血の繋がりはない親戚の元で育つ。
その親戚の家というのがセシルの家の隣にあり、二人は幼馴染みという関係。
そして、彼女は人間だったが、吸血鬼からするととても美味しい血を持っている。
それが理由で、その血を狙った吸血鬼によって冬休みの前に攫われてしまい、現在は行方不明となっている。
ちらり、横の方を見ると、誰にも使われていない机が見える。前は、彼女があそこを使って居たらしい。
クラスの子に聞いた所、白菊さんは心優しく、控えめ。だけど正義感が強く、喧嘩が起きたら、殴り合いの最中でも止めに行くような子だったという。
この中学は公立だから近くのいくつかの小学校の生徒が集まっており、彼女と六年以上の付き合いのある生徒も多い。
そうでなくても、半年あれば、みんなに好かれるような子で、彼女が行方不明になった事をクラスのみんなは悲しんでおり、そして特段と仲が良かったセシルの事を深く心配している。
セシルは元々ダウナーでややネガティブな人物だったが、彼女がいなくなり、それが一気に加速してしまったらしい。
だから、気を使われて、目立っているのだ。
──コツン、コツン
手に何かが触れたので見ると、隣からシャーペンで突かれている。
手の下にあるわたしのノートには何か書き込まれていた。
【何で、こっち見てんだ】
それを書き込んだ存在、隣の席のセシルを見ると、彼は前を見ていて真面目に授業を受けてますよって雰囲気。
でも、いつもより眠そうかも。
さっき書き込まれた文字の下に、わたしも書く。
【べつに見てない】
あなたじゃなくて、その奥の白菊さんの机を見ていた。と、続けるのは止めておいた。



