「こいつが、親に心配させるの嫌だから、もし自分が保健室に行くことになったら、帰りの会前に起こして先生に連絡させないようにしてって、前に言ってきたから、それを尊重したまでだ」
セシルは、さらっとないエピソードを言う。
起こして欲しい理由は間違ってないけど、突然のウソつくの上手だ。
山田くんは、セシルが淡々と言い返すのが嫌だったのか、どんどん不機嫌そうな顔になっていく。
そして突然、一線を超えてきた。
「セシル、お前、日下部の事忘れたのかよ!」
セシルが鞄を押し除けて机を乗り越えようとするから、後ろから抱きしめる形で止める。
「お前!」
セシルの声は怒気が籠もっていて、教室の空気がビリビリとする。
「セシル落ち着いて、殴っちゃ駄目、殴っちゃ駄目!」
吸血鬼の貴方が殴ったら、ただの人間は大怪我してしまう。
わたしは必死にセシルを止める。
力勝負になったら勝てないから、訴えかけるしかない。
「別に、殴ったりはしない」
セシルはわたしの手をどかそうとしながら、わたしに向って言う。
その声は冷静だが、怒りの感情は滲み出ているし、山田くんを強く睨み付けているから離すことなどできない。
「ほら、くっついてる。お前やっぱ、そばにいない日下部なんてどうでもよくて、そいつに乗り換えたんだろ」
「俺が! 白菊をどうでも良いと思うことあるはずがないだろう!」
その声はきっと、学校中に響いただろう。そのくらい大きな声だった。
「はぁ⁉ じゃあ、なんでそいつにかまってんだよ! お前、日下部一筋だったろ!」
セシルの大声に負けず、山田くんも怒鳴りつけるような声だ。
「そうだ! 俺は白菊一筋だ、今も昔も! ずっとアイツが一番だ!」
山田くんは驚いた顔をした後、わたしを見て気まずそうな顔をする。
そんな気を使う様な顔しなくていから、早くどっかいって!
わたしの願いが通じたのか、山田くんは離れていくが、教室には不気味なまでの静寂が訪れる。それは先生が職員室から戻ってくるまで変わらなかった。



