「あなた、迷子なの?」
彼はゆっくりと顔を上げる。
その顔は、驚く程綺麗で、そして今にも壊れてしまいそうな雰囲気を纏っている。
ああ、声をかけて正解だ。
ガラスの様な目でぼんやりと見ている彼にわたしは続けて話す。
「わたし、迷子なの。お父さんとはぐれちゃって」
「……おれもはぐれた」
「そうなんだ、一緒だね。……わたしね、迎えに来てくれるのを待つか、自分で探しにいくかで悩んでて、どっちが良いと思う?」
彼は、ゆっくりと口を開く。
「おれは……」
その瞬間、砂嵐が視界と音を埋め尽くした。
砂嵐がなくなったかと思えば、チャンネルが変わったみたいに、景色が変わっている。
「嫌いだ、嫌いだ、大っ嫌いだ!」
真っ暗な夜、道路の真ん中で、セシルは叫んでいる。
「白菊の血を狙う吸血鬼も! 危ない存在を見逃していたお前ら吸血鬼ハンターも!」
彼の魂からの慟哭を聞いて、わたしは動けない。
「幼馴染みなのに、白菊を守れなかった……弱い、俺も」
段々と彼の言葉が弱くなっていく。
今にも消えてしまいそうな彼に駆け寄りたくて、でも足が踏み出せなかった。
「全部嫌いだ……」
その瞬間、一月一日を告げる花火が上がった。
花火の光りで見えた彼の顔。
その頬には、涙がこぼれ落ちていた。
花火が空に消えていって、辺りが花火が打ち上がる前よりも真っ暗になっていき、夜じゃなくて暗闇が、わたしの周りに出来上がる。



