椅子にしがみつきながら、なんとかフェンスのあみあみ部分に足をツッコむ。
「痛ったいなぁ!」
一瞬、椅子の勢いが止まった。
わたしは足の痛みを忘れるように掴んでいた椅子を屋上の床にぶん投げる。
衝撃に耐えられなかった椅子は、今度こそ灰になっていく。
ああ、良かった。無事に椅子を退治できた。
だけど、椅子を投げた反動でわたしの体がフェンスを越して、屋上から地面へと落ちていく。
やばっ。
……でも、これで眷属に襲われる人は居ないから、そこは良いか。
体の向きを地面に向けようと思ったとき、
「馬鹿!」
セシルがわたしを追ってフェンスを越えてきた。
その背中には、なにか黒い物が見える。
学ラン?
いいや、違う──羽だ。
「渚!」
……セシルって、わたしの名前覚えているんだ。
落ちていく私に向ってセシルが必死に手を伸ばすから、わたしも手を伸ばし返した。
セシルはわたしの手を掴むと、そのままわたしをお姫様抱っこして、空を飛ぶ。
「お前、馬鹿なの!」
耳元で大声を出され、キーンと耳鳴りがする。でも、ヤバかったのはわたしだからこのくらい受け入れよう。
「ごめんね。助けてくれてありがとう、セシル」
感謝を告げると、彼は顔を逸らす。
「別に。お前に死なれたら困るだけだ」
そっけなく言うけど、風で靡いていているから見える耳が照れて赤くなっている。
「ほんと助かった。まぁ、修行してきたし学校の屋上からくらいなら安全に着地できたかも知れないけど」
「は? 落とすぞ」
「わっ」
抱き上げているわたしを自分の体から離して不安定にさせるから、首元手を回してセシルにしがみつく。
「待って、まだ続きが有る。安全に着地できただろうけど、セシルの方が十倍。いや、百倍安心出来るって話をしたかったの」
「はぁ」
セシルは大きくため息をつく。
そしてわたしを落ちないようにしっかり抱えると、悠々と空を飛んで屋上に戻った。



