ナイフを机に投げつけると、一瞬怯んだからその隙に近づき、なんとか掴む。
「力勝負は苦手なんだけどね。セシル!」
抵抗する机を押さえ込みながら、名前を呼ぶと目が合った。
セシルは、わたしのしたいことが分かってくれたのかこっちに来て机を掴んでくれたので、任せる。
セシルの力があれば、壊せる筈!
その間に逃げようとした椅子に対し、太ももから残りのナイフを取って投げつける。
「ちっ」
当たったけど駄目だった。椅子はそのまま逃げていこうとする。
「しゃがめ!」
わたしがしゃがむと、セシルは机を椅子に向って投げつける。
大きな音を立てて、二つはぶつかった。
「ナイスヒット!」
でも、机ってばだいぶしぶとい。わたしが駆けつく前にもう動き始めてしまっている。
「ちっ」
つい、わたしが舌打ちをしてしまうと、
「心配しなくていい。日が出てきた」
落ち着いているセシルの声がして、彼の方を見る。
雲の中から現われた太陽を背に立つセシル。その影が──動いた。
吸血鬼ってのは、みな一つくらい得意技を持っているものだ。
何にでも変身だったり、どこまでも空を飛んだり、人を魅了したり、透明になったり。
セシルにも、得意技が有る。それは、影を操る事だ。
まだ未熟なセシルは自分の影、しかも日光でできた影しか操れないという、使い勝手が悪く、吸血鬼らしからぬハンデがあるが、得意技というだけあって、刀を持ったわたしより断然強い。
日光で出来たセシルの影は、すごい早さで伸び、セシルの形から逸脱した形になり、そして机の脚を四地点全部で捕まえる。
ほんと一瞬。こうなったら最強だ。
「これを確実に倒す方法は?」
尋ねられ、何パターンか思いつくけど、一番いいのは……
「そのまま締め上げるだけでも大丈夫。でも、素早さを求めるなら引き裂けばいい。壊れちゃうけど、一度眷属となってしまった物を元に戻すのはとても難しいの」
「分かった」
セシルが言うと、机を捕まえていた影は二股に分かれ、後も簡単に机を右と左に引き裂いた。
大きな音を立て机の残骸が地面に落ち、しゅっと影が消える。
空を見上げると、太陽がまた雲で隠れてしまっていた。一瞬のチャンスを、わたし達は上手く活用できたんだ。



