ほたる先生は振り向かない

「みんなでやるなら、別にいいけど」

「みんなでー?なんで?」

「ふたりはやだ」


はっきりとそう言った瞬間、視界に中庭を横切る見慣れた姿が映る。

考えるより先に、声が出た。


「ほったるせんせー!」

自分でも大胆だなって思う。
でも別に、誰も気にも留めないであろう、私のこの挨拶。

“また誰かに絡んでるな”くらいの視線だけ向けられている。


ほたる先生はまぶしそうにメガネを光らせて、こちらをすぐに見上げた。
こんなにクソ暑いのに、涼しそうに見える不思議。

担任をしている二年生の校舎へ移動している途中だったのか、クラス簿を日除けにして半分睨むみたいに私を見つけて足を止めてくれた。


「せんせ!やっほー!」

こんなに大きく手を振ってるっていうのに、先生はあっさりと会釈だけしてさっさと行ってしまった。


「蛍谷、まじ存在薄いよなー…」

隣にずっといる男子のそのつぶやきに対して、私は聞こえないふりをした。


「今日もわざと当てられてたじゃん」

「んー。古典苦手なのバレてるだけ」

「あいつ神経質そうだもんな」

「そうかもね。細かいところまで見てくれるよ」

「────ん?」


話が噛み合わなくなったところで、私は手元にあったジュースを一気飲みした。

ストローが音を立てたところで窓から離れて教室に戻る。


「玲奈、コロッケ買いに行こ!」

髪の毛をいじっている玲奈の手を引いて、その場から逃げるみたいに教室を出た。
ついでにゴミ箱に空になったパックを捨てる。


まだ枝毛探しをしている玲奈が、半笑いで尋ねてきた。

「…まつり、せっかく“顔面レベル高めの彼氏がいる夏休み”にできそうなのに。捨てていいの?」

「……いらん、あんなの」


それは、ほんとの気持ち。

私は玲奈と階段を降りながら、まぶしそうに目を細めるほたる先生の顔を思い出していた。


あれくらいかっこよければ、なにされても文句は言わないけどね。
……と、心の中で付け足しながら。



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