ほたる先生は振り向かない

「ほーたるせーんせっ」

放課後。

職員室のそばで待ち伏せしていた私は、ほたる先生が戻ってくるのを見つけるやいなや声をかけた。


先生はドアに手をかけたところで足を止めて、こちらを振り向きもせずに

「……岸さん、勉強のことなら聞きます」

と、いつもの温度で返してくる。


私は少しだけ考えて、バッグを小脇に抱えて職員室に入ろうとするほたる先生の腕を引っ張った。

……なのに、先生はびくともしない。

「見られたらまずいから、ちょっとだけ!」

「見られたらまずいものは、持ち込まないでください」

「えっ、今日なんの日か知らないの?」

「興味ありません」

切り捨てるような口調に負けじと、私は職員室のドアと先生の間に無理やり体をねじ込む。


あまりに必死な様子に、さすがの先生もドアから手を離す。

「……バレンタインデーだよ?」

「そうでしたか」

「ね、ほたる先生って、甘いもの好き?」

「糖分が必要な時は、自分で補給します」

秀逸すぎる返しに、思わず吹き出してしまった。


私がごそごそとバッグから昨日頑張って作ったチョコを出そうとしたら、「岸さん」と名前を呼ばれる。

見上げると、先生が迷惑そうに目を細めていた。

「その労力を、勉強に使ってください」

「恋愛も勉強の糧なの!」

「僕には関係ありません」

「そんなにおっきくないからさ、ほら、そのバインダーに挟んで!」

「だめです」

即答だった。