ほたる先生は振り向かない

「先生。絶対、ここに戻ってくるから。教師になってここに会いに来るから」

「それはご自由にどうぞ。難しいと思いますが」

「戻ってきたらさ、社内恋愛しよ?」

「お断りします」

迷いのない即答だった。
でも、そんなことは分かっている。

そういう風にばっさり切り捨てるような言い方をするだろうなというのも予想していた。

だからって、ここで折れる私ではない。


「今は、ね?」

「今も、これからもです」

「四年後も?」

「分かりません」

「よし」

先生が何度目か分からない大きくため息をつく。


「岸さん。そういうところですよ」

「褒め言葉?」

「違います」


私は笑いながら、卒業証書の筒を抱え直した。

「だから待ってて。ちゃんと追いつくから」


先生は少しだけ黙って、それからメガネを押し上げる。

「まずは教師になってください」

それから、小さく付け加えた。

「……合格、おめでとうございます」


最後の最後まで先生らしい。
だから、私も今日は最後まで絶対に私らしくいたい。


「じゃあ、教育実習で戻ってくるから。そしたら連絡先交換ね!」

「いや、ちょっと岸さん」

「またね!先生!」


ほたる先生に手を振って、私は返事を待たずして職員室の入口に立つ。

私なりの言葉を残したっていうのに、先生はもうこちらを見ていない。


そんなほたる先生だから、好きになったんだと思う。

先生の背中に小さく手を振って、私は職員室を出た。


廊下の向こうから、玲奈たちの笑い声が聞こえてくる。
スマホを見ると、通知が大量に届いていた。


三年前。

こんな未来になるなんて、想像もしていなかった。


誰かを好きになって、悩んで、努力して。

遠回りもした。


それでも。
私は、自分自身の意思でここまで来た。


だから、次にここを訪れる時は生徒としてじゃなく、今度こそ隣に立てる存在になれるように。


ゆっくりと歩き出した。




°・*:.。.☆おまけへ続く°・*:.。.☆