ほたる先生は振り向かない

私があまりにもしつこいからか、先生は露骨に眉を寄せて首をかしげる仕草をした。

そしていつもの戯言をかわすみたいに、深々とため息をつく。


「岸さん。僕になにを話しに来たんですか?」

「私ね、教師になることにしたの」

「────はい?」


さすがの不意打ちに、ほたる先生はメガネの奥にある目を丸くした。

ここまで先生を驚かせたのは、たぶん、初めてだと思う。

その顔が見たくて、勉強を頑張って頑張って頑張って。
第一希望だった大学の教育学部に合格したんだから。

私は嬉しくなって、先生の机にもたれるようにして顔を覗き込む。


「びっくりした?」

「……はい」

「めっちゃ頑張ったんだから。いい大学に受かったんだよ」

「それは、……そうでしょうね」

まだ、ほたる先生は衝撃が抜け切らないらしい。

「で、あと四年間また頑張って、この高校に戻ってくるから」

「……岸さん」


まだまだ畳み掛けたいのに、先にほたる先生に遮られた。

「自分の人生ですから。きちんと考えましょう」

「うん。考えたよ。ちゃんと人生賭けてる」

「……古典の教師ですか?」

「現国」


これまた意外だったらしい。
ほたる先生は二度目の衝撃を受けていた。

なんのため息か分からない、謎の息をついて。
一度目を閉じてから、また私の顔をまじまじと見つけてきた。

そんなに私を見ること、もしかしたら初めてかも。


「本気なんですか?」

「うん。超本気だし、なんなら沢村先生にはだいぶ前に伝えたよ」

「……そうですか」

無理やりパソコンの画面に視線を戻したらしいほたる先生の指が、一向にキーボードの上から動かないのが面白い。