ほたる先生は振り向かない

質問された当の本人は、これまた微妙な表情で苦笑いしていた。

「まあ、一応決めたっちゃー決めたけど。面談では第一希望は難しいって言われたから、レベル落とすかも」

「大事なことですから。よく考えてみてください」

「はい。ありがとうございます」

彼は教科書を揺らして先生に手を振るみたいにすると、教室から出ていった。


次の子は、ノートを抱えた女子生徒だった。

同じ三年生だけど、古典の講習で何回か見かけたことがある程度。
名前も知らない、他のクラスの子だ。


「先生、和歌ってなんでこんな遠回しなんですか?」


ざっくりとした質問。
だけど、ほたる先生はそういうのも、ちゃんと答える。

「直接言わない文化だからです」

「めんどくさくないですか?」

少しだけ困ったように先生が息を吐く。

「だから読む側が考えるんです」


女子生徒は「それが分かんないのに〜」と嫌そうな顔をしたあと、なにか思い出したみたいに顔を上げた。

「先生、面談終わりました?」

「終わりました。そちらは?」

「昨日やりました。まだ迷ってます」

先生は驚く様子もなく、小さくうなずく。

「夏休み中に全部を決め切る必要はありません。ただ、方向性だけは考えるといいと思います」

「……頑張ります」


女子生徒はぺこりとお辞儀をして、それから足早に去っていく。


私は列の後ろで、そのやり取りをぼんやり眺めていた。

……みんなに聞いてるんだ。

進路も、面談も。
平等に。