ほたる先生は振り向かない

お母さんの問いかけに、どう答えようか少しだけ考えを巡らせる。
でも、そんなことをしてもどうせ粗が見えてしまうのも分かるから、全部は言わない。

「好きだからいいじゃん」


それだけの曖昧な答えなのに、お母さんは動じなかった。

「……まつりって、昔っから好きなものには一直線だもんねぇ。ちょっと周りとは違ってたし」

「違わないよ。めっちゃ溶け込んでる」

「溶け込んでるけど、根っこは変わってないよ」


それをこの場で言うお母さんが面白くて、ふっと力が抜けて笑ってしまった。

ついていけてないのは、担任だけ。


教室の冷房が効いているのに、なんだか少しだけ暑かった。


「……ちなみに、」

担任が咳払いをして、調査票を見直す。

「第一から第三まで、全部同じ方向……なんだね?」

「うん」

「途中で変える気は?」

「今のところない」


はっきりと言い切った私に戸惑うみたいに、困ったような苦笑いを浮かべた担任はぽりぽりと頬をかいた。

「いやぁ……岸さんって、もっと迷うタイプかと思ってた」

「私もそう思ってた」

隣でお母さんが吹き出した。

「先生、まつりは迷わないですよ。突っ走ります」


なぜか口を挟んできたそのお母さんの一言で、先生が耐えきれなくなったのか大笑いする。

「お母さまがそう言うなら、このまま行くしかないですね!」

「ですねー!」


二人とも、楽しそうに笑っているけれど。

私はそんな二人を頬杖をついて眺めて、これからの未来をほんの少し思い描いていた。

むしろ、ちょっと楽しみだった。