ほたる先生は振り向かない

教室内にいた担任から「岸さん」と呼ばれて、私とお母さんはすぐに中へ足を踏み入れた。


女子テニス部の顧問をやっているおかげか、夏休み前よりさらに真っ黒になった小麦肌の担任が、白い歯を見せて笑う。

ひとつ結びにした髪の毛を払いながら、「どうぞ」と私とお母さんを座らせた。


「岸さん、ほとんど毎日自習室に来てるんだってー?」

担任はパソコンをいじりながら、私に話しかけてくる。

腕時計を外している左手首の一部だけが、日焼けしていなくて真っ白。
紫外線の凄まじさを見せつけられる。

「まあ、学校の方が集中できるし」

「お母さま、岸さん最近頑張ってますよ」

「なんかそうみたいですねぇ。夏休みは遊び歩くと思ってたんですけど」

世間話なのか、なんなのか。
よく分からない雑談をまじえつつ、担任が準備できたのかこちらを向いた。


「さて。今日はお忙しい中お越しいただいてありがとうございます。早速、進路希望調査票をお預かりします」

と、急に本題に入ってきた。

私はバッグから昨日記入した調査票を取り出して担任へ渡した。

受け取った担任は、その内容に視線を滑らせた直後。
気の抜けた表情から驚いたものへと瞬時に変わるのが分かった。


「────えっ?」


担任があまりにもフリーズしているものだから、隣にいるお母さんが身を乗り出す。

「えっ?先生、なんですか?」

「い、いや、お母さま、ご存知でした?」

「いいえ」

二人揃って、調査票を覗き込む。

……そして、面白いほどシンクロした動きで私の顔を伺うように見つめてきた。


「……へぇ〜」
「岸さん、本気なの?」


お母さんと、担任の反応がまるで違う。