ほたる先生は振り向かない

また教室が静かになった。
みんな、なんだかんだちゃんと聞いている。


「漢文って、“なんとなくそれっぽい”で解こうとすると点数が安定しません」

先生はそう言いながら、黒板の端に小さく丸をつけた。

「逆に言えば、ルールを理解するとかなり安定します。共通テストは特に」


合理的。 効率的。 無駄がない。

ほたる先生の漢文の説明は、本人そのものみたいだった。

「だから僕は、古文より漢文の方が好きです」


さらっと落とされたその一言に、教室がまた少しざわつく。

「えーっ、意外」

「古典の先生って古文派じゃないんだ」

「なんかショックかも」

口々に飛ぶ声を聞きながら、私はひとりで笑いそうになる。


……分かる。

なんとなくだけど、 先生は昔から漢文の方が好きそう。

感情を全部言葉にしないところとか。 静かなところとか。 少ない文字で成立するところとか。

そういうの、先生っぽい。


「もちろん古文も好きですよ」

黒板へ向き直ったまま、ほたる先生がぽつりと付け足す。

「ただ、古文は少し感情的すぎるので」

「そこがいいのにー」

女子生徒の一人が不満そうに声を上げる。

すると先生は数秒考えるみたいに黙ってから、

「……古文は恋愛ばかりですし」

と、真顔で言った。


教室がどっと笑いに包まれた。



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