「あっ、沢辺さん」
明日は学校が休みで嬉しいなんて考えていると、後ろから声がかかった。聞き覚えのある声だ。
「勅使河原さん、また会いましたね」
振り返ると案の定、勅使河原さんだった。
「あの、勅使河原さんが診療している、動物病院を教えてくれませんか」
勅使河原さんが言葉を発する前に、この間聞きそびれたことを口に出してみた。
「この名刺に書いてある動物病院だよ」
名刺を差し出してくれた。
名刺を見ると、勅使河原さんは院長先生ということを知った。。
住所も書いてあるから、今度訪ねてみよう。
学校の近くだから、場所は行きやすそうだ。
家に帰って、勉強などやることを終わらせてから動物病院のことをスマホで調べてみた。
ホームページを開いてみると、最初に院長先生、勅使河原さんのあいさつがあった。
スクロールしていくと、施設紹介や診療内容などが書かれていた。犬と猫の専門病院のようだ。
ちなみに私はどちらも好きだよ。
写真で見た施設はとてもきれいで、安心して治療が行われているんだなと思った。
翌日。動物病院に向かうことにした。
両親にはまだ話していない。
勅使河原さんや動物病院のことを。
私もまだよくわからないことがたくさんあるからね。
だから今日は、友達と遊びに行ってくると嘘をついて、家を出た。
そんなことを考えていると、あっという間に着いた。
「すみません。勅使河原さんって方いらっしゃいますか?」
私は病院に入り、受付人に訊ねた
聞いたあと、少し不安になってしまった。
一人でこんなところに来るなんて初めてだから。
「いるけど、どうしたの?」
受付の人が問いかけてきた。
「えっと、知り合いなんです」
「勅使河原さんに声をかけてくるね」
少し面倒くさそうにしながら、診察室の方に行った。
私みたいな子供に構ってる暇なんてないよね。
今気づいたけれど、待合室にはたくさんの飼い主さんと患者さんが待っていた。
私、こんな時に来てしまって迷惑だったかもしれない。
「沢辺さん、来たんだね。どうしたのかな」
少しすると、勅使河原さんが奥からやってきた。
ペットを連れてきてもいないのに、動物病院に来るなんておかしいよね。
「もし良かったら見学させてもらえませんか。邪魔だったら全然いいんですけど……」
勇気をだして聞いてみた。
ココミエの持ち主として、動物について知りたかった。
「いいよ。だったら少し手伝ってもらおうかな。診察室はこっちだよ」
思ったより、快く受け入れてくれた。
案内してもらい診察室に入る。
でも、手伝いってなんだろう。
「今は猫に予防注射を打つんだけど、心を読みながら、この子に声掛けしてもらえないかな」
手伝いってそういうことだったんだ。
これは私の得意分野だから頑張ろう。
今回の患者さんは三毛猫。
「頑張ってね。すぐに終わるからね」
心はすごく不安で怖い気持ちでいっぱいだった。
勅使河原さんが注射をさしていく。
「えらいね。終わったよ」
三毛猫は鳴いている。痛かったよね。
「沢辺さん、ありがとう。手伝ってくれたおかげですぐに終わらすことができたよ」
「私なんて何もしてませんよ。こちらこそ、ありがとうございました。また来てもいいですか?」
こんなに歓迎してくれるから、また来てみたい。
「来ていいよ。あと、時間のある時にその力のこと詳しく聞かせて」
勅使河原さんはいい人すぎるよ。
力を認めてくれたし、今回も頼ってくれたし。
「お母さん。少し話をしたいんだけどいいかな?」
数日後の夜。そろそろ、動物病院のことや勅使河原さんのことを話そうと思い、お母さんに話しかけた。
「うん。いいよ」
まず、ココミエのことを改めて話した。
そして、学校帰りに勅使河原さんという獣医師さんに出会い、動物病院に行ったりしてることを話した。もちろん、手伝いをさせてもらったことも。そして、もらった名刺を見せた。
「ごめんね。力のこと信じてあげなくて」
怒られることもなく、認めてくれた。
「でも、そういうことは行く前に言って。あと、勝手に知らない人について行ったらだめ」
「はーい」
「沢辺さん。すごくいいタイミングに来てくれたよ」
一ヶ月が経ち、少し暖かくなってきた。
休日は動物病院に行っていることが多い。
今日も来てみた。
「いいタイミングってどういうことですか?」
「保護猫団体の人から、たくさんの猫たちの予防注射や避妊去勢手術を頼まれていて。だからまた手伝ってくれるよね」
そう言われてみると、待合室や診察室はなんだか騒がしいかも。
保護猫団体とは、どんなところなんだろう。
私は動物は大好きだけれど、あまり保護猫とかについては詳しくない。
なんだか情けないな。もう少し勉強しないと。
診察室に入るとたくさんのキャリーケースが床や診察台に置かれていた。
「これから、順番に診察していくから心を読んでもらおうかな」
「はい。わかりました」
猫の心を読み、勅使河原さんや看護師さんと話しながら忙しなく治療を進めた。
時間はかかったけれど、無事に終わらせることができた。私は、きちんと役に立っていたかな。
