異能力で動物を助けます

「琴羽《ことは》、もうこんな時間よ。起きなさい」
ノックもなしでばんっとドアが開けられた。
驚きで目を開ける。
そこに立っていたのは、専業主婦のお母さん。
「とっくに起きてるよ。勝手に入ってこないで」
「お母さん、忙しいんだから。早く学校に行く準備をしなさい」
それだけ言って、バタバタとドアの向こうに行った。
時計を見て、いつもより少し遅い時間だと気づき、慌てて布団から出て、カーテンを開ける。
窓から差し込む、四月の日差しが気持ちいい。
ここは十一階建てのマンションの一室。
私、沢辺琴羽《さわべことは》は両親と三人この六階の部屋で暮らしているんだ。
兄弟やペットはいなくて、いわゆる一人っ子。
急いで朝食を食べて、真新しい制服に着替えた。

「行ってきます」
玄関の扉を開いて、家を出た。
今日は初登校日。
体験入学はしたから、厳密には、初めてではないかな。
家から中学校までは歩いて十分といったところ。
通勤するサラリーマン、自転車に乗っている高校生、散歩をする人、集団で歩く小学生。
様々な人が行き交う。
私もその中に交じって、一人で歩いていく。
私には、仲のいい友達は小学生の頃からあまりいない。つまり、ぼっちだった。
でも中学校ではぼっちを卒業したい。

「沢辺琴羽です。私は動物の心を読むことができる力を持ってます。よろしくお願いします」
入学式が終わって、次の時間はクラスでの自己紹介。
沢辺だから順番が回ってくるのがすぐだった。
私は動物の心を読むことができるの。
動物のことを見つめると、心の声が聞こえてくるんだ。
私は、このことを心が見えるという意味で「ココミエ」って呼んでいるの。
ココミエには特徴があって。
まず、人の心は読めない。人の心も読んでみたいと思って実践したことあるけど、できなかった。
二つ目。調子が良くない時には動物達の負の感情だけが聞こえてくる。
それが聞こえたら、耳をふさぎたくなる程辛い。
このことを誤作動と自分の中で呼んでいる。
「そんなことできるわけない。注目を浴びたいんだろ」
一人の男子が立ち上がって、そう言った。
他のクラスメイトや先生からも白い目で見られた。信じてくれるわけないよね。 

ココミエが初めて聞こえたのは、数ヶ月前に近所の犬と会った時。だから、ココミエが使えるようになってからあまり日数は経っていない。
まだ家族にしか言ったことがないけど、その時も半信半疑みたいな感じだった。
全員の自己紹介が終わり、帰りの学活も済ませて下校した。初日から、印象悪くしてしまった。
私は何をしてるんだろう。

「私、琴羽。名前、教えてもらってもいい?」
翌日の休み時間。
一人でいた女子に話しかけてみた。
その女子は無言で席を立ち、教室を出ていってしまった。
無視された。
自己紹介であんな事を言ったからかな。
信じてもらえなくてもいいけど、私を避けないでよ。
こんなことでくじけてられないと思い、数人の女子がグループの近くに行った。
昨日の今日にも関わらず、もうグループができているところがある。
「何話してるの?私も混ぜてもらえないかな」
私が話しかけると、女子グループは小声でコソコソ話しながら、すぐにその場を離れてしまった。
やっぱり、私避けられてるんだね。
雷で撃たれたような気分。

「ねえ、君。その猫と話してるのかな」
その日の下校時。道端にいた猫と話していると、見知らぬ男性が話しかけてきた。 
その人には全く見覚えがない。人違いかな。
「僕、獣医師をしている勅使河原《てしがわら》というんだ。沢辺さんっていうんだね。そこの中学校の生徒かな?」
私の制服に書いてある名前を見て、そう言ってきた。獣医師さんは私に何の用事だろうか。
「はい。そうですけど……。私に何か用ですか?」
「急に話しかけてごめんね。すごく楽しそうに猫と関わってるから、ついはなしかけちゃった」 
勅使河原さんは、ついうっかりという感じで返答した。
「実は私、動物の心を読む力を持っているんです。その力のことをココミエって呼んでて……。だから今もこうして猫と話していました」
なんと言葉を返せばいいかわからず、力のことを言ってしまった。
直感的にこの人なら言ってもいいと思えた。
獣医師さんだからかな。
でも、初対面でこんなことを言われても困ってしまうよね。
「すごいね。その力」
勅使河原さんは、当たり前のようにそう言ってくれた。信じてくれたってことだよね。
この力を信じてくれた人は人生で初めて。
「あっ、時間が。訪問診療に行ってくる」
勅使河原さんは、訪問診療があるみたいでそこに向かっていった。