トワイライト〜ふたりで奏でる最高の歌〜


「……できた」

スマホの録音完了ボタンを押して、小さく呟く。

胸の奥にしまっていた気持ちを全部吐き出した。

体も心も一気にほぐれた気分。

ふぅ……と少し息を整えて、トワイライトのアカウントを開く。

動画投稿の画面。

タイトル欄を見つめたまま、指が止まる。

怖い。

『今はひとりになりたい』

そう言って出ていってしまった朝ちゃんだ。
翌日も、放送室には来てくれなかった。

だから……。

もうトワイライトのこのチャンネルを開いてくれなかったら。

私の曲を聴きたいと思ってくれていなかったら。

もし、嫌われていたら。

ううん。

それでも、自分の本当の気持ちを伝えないまま、終わりたくない。

私の全部を使って伝えたい。

私は、大きく息を吸って、投稿ボタンを押した。

「……いけっ!」

──投稿が完了しました。

その文字が表示された瞬間。

「……っ」

全身から一気に力が抜けて、私はそのままベッドに倒れ込む。

心臓がうるさい。

でも、もやもやぐるぐるしていた時間よりもずっと心地いい。

その時だった。

──ブブッ

スマホが震える。

びくっと肩を揺らしながら画面を見る。

【トワイライトが新着動画を投稿しました】

「……ん?」

思わず体を起こす。

先ほど自分が投稿した動画の通知が時差で届いたのかと思って、改めて動画一覧を見返す。

「えっ、これ、私が投稿した動画じゃない……」

私の投稿した動画のサムネイルは、夜空の画像の背景に曲のタイトルが入ったもの。

画面には、私の出した動画の上に新しい動画が載せられていた。

朝日が昇る画像の背景に文字が並んだ動画。

《夜の海に包まれて》

……こ、これって……

一体、どう言うこと?

震える指で、その動画をタップする。

真っ暗な画面。

数秒の無音。

そして──。

──ぽろん。

静かなピアノの音が優しく滑らかに響く。

柔らかなイントロの後、息を吸う微かな音でわかった。

──朝ちゃんだ。

何度も真横で聴いていた息遣い。
胸の奥がぎゅっと締めつけられる。

遠くまで響くような、それでも透明感のある伸びる声。

《ガラス越し 映る顔 うまく愛せないまま》

《放たれる言葉の数だけ 空っぽになっていく》

《オレンジのあの場所で 静かに触れられて》

《冷え切った心の奥 夜の海に救われた》

《キミはぼくの希望》

《夢語り 困り顔 わがままばかりの日々》

《誰かと奏でること 怖くてつき離したのに》

《終わらないでこの時間 静かに願ってた》

《となりで笑い合えば 夜の海に包まれた》

《夜がぼくの太陽》

「……っ、」

視界が滲む。
こんなの、ずるい。

私は……朝ちゃんを傷つけてしまったのに。

サビの部分では、朝ちゃんの声が僅かに震えてる気もして。

涙が、ぽた、とスマホの画面に落ちる。

朝ちゃん。

朝ちゃんが、私との時間をどんなふうに思っていたのかが痛いぐらい伝わってくる。

喉が熱い。

胸が苦しい。

……会いたい。

曲を聴き終えても、涙は止まらない。

頬に伝う涙を何度も拭っていると、突然、ぎゅっと握りしめていたスマホが震えた。

通知が一件。
差出人は、今、一番会いたい人からだった。

《明日、いつもの場所で待ってる》

その文字がすぐに滲んでしまう。

私はいっつも、朝ちゃんに助けられてばかりだ。

私は震える指で、《うん》というたった二文字を返す。

今度は、絶対にその手を離したりしなと、強く心に決めた。