逃げられるものならお好きにどうぞ。



少しずつでもいいから、これから黒瀬くんのことを、もっと知っていきたい。

今日みたいに、色々な表情を見てみたいと思う。



胸に積もり始めている感情の正体に、私はとっくに気づいてる。

だけど、今はまだ……あと少しだけ、この穏やかな時間に浸っていたい。



隣に立つ黒瀬くんを見上げながら、考える。



――好きになることなんて、絶対にないって。そう、思ってたのになぁ。



「……ん? どうかした?」

「……ううん、何でもない」

「ほんとに? すごい熱視線を感じたんだけど」

「別に……ただ、今日も相変わらず綺麗な顔してるなぁって見てただけ」

「ふっ、何それ」



黒瀬くんの優しい笑顔を見て、大切にしたい感情が、また少しずつ募っていく。

それは雪のように静かに、しんしんと。


――胸いっぱいに、降り積もる音がした。