逃げられるものならお好きにどうぞ。



「ごめん。今は仕事の関係で、としか言えないんだ。でも、あの会場に居たことも、美代さんと一緒に居たことにも、疚しいことは一切ないよ。さっきの奴は……仕事絡みで知り合ったんだ。会場で無視したのは、お姉さんを巻き込みたくなかったからで……」



必死に伝えてくれる黒瀬くんを見ていたら、胸中にあった負の感情が、空気の抜けた風船みたいにシュルシュルと萎んでいくのを感じる。

黒瀬くんの今の言葉に嘘はないって、そう思えるから。


――私は黒瀬くんのことを、信じたい。



だけどあっさり許してしまうのも何だか悔しくて、わざとムッとした顔でふてくされた振りをしてみる。

無言のままちらりと視線を向ければ、黒瀬くんは本気で困ったような顔をしていて。



「……ふふっ、困らせてごめんね。分かった、無視したことは許すよ」

「……ほんとに?」

「うん。心配してきてくれて、ありがとう」



黒瀬くんを見上げて、そのまま彼の胸元にコツンとおでこを当てて背中に腕を回した。

だけど自分でしたくせに恥ずかしさが込み上げてきて、慌てて離れる。